化学だいすきクラブ

暮らしの化学 人形からサッカーボールまで おもちゃ箱は素材の宝庫

暮らしの化学 人形からサッカーボールまで おもちゃ箱は素材の宝庫

ぬいぐるみや積み木,ブロック,ミニカー,おままごとセット・・・。

ふわふわだったり,硬かったり,軽かったり,重かったり。おもちゃ箱の中には,天然の素材から人によってつくられた人工の素材まで,実にいろいろなものがあることに気付かされます。

小学3年生の花子がお気に入りの人形とサッカーボールの化学を中学1年生の物知りお兄ちゃん ケンに教えてもらいました。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

人形をつくるいろいろな素材

花子 今日は,お気に入りの人形に素敵なお洋服を着せて,髪をサラサラにとかして友達の家に一緒に出かけしましょう(図1)。あら・・・? 顔は柔らかいのに胴体は硬いのね。どうしてなのかしら?お兄ちゃん!この人形って何からできているか知ってる?

ケン 面白いところに興味を持ったね!お菓子や飲み物などの食品と同じように,人形が何でできているかは,買ったときに入れられている箱を見るとわかるよ。顔はPVC,胴体はABSって書いてあるね。それから髪の毛やイヤリング,服もそれぞれ違う素材からできているね。

花子 へぇ。こんなにいろいろな素材が使い分けられているのね!でも,顔と胴体はどちらも肌色のプラスチックなんだけれど…。

ケン そうだね。顔のPVCは,ポリ塩化ビニルというプラスチックだ。硬いものもあるけれど,可塑剤という薬剤を加えると,柔らかくすることができる。だから,この人形の顔はふっくらとしているね。胴体の素材のABSとは,アクリロニトリルのA,ブタジエンのB,スチレンのSから付けられたプラスチックの名前なんだ。この3つの物質の性質のいいとこ取りをしようと,3つを混ぜて結合させてつくられている。熱や衝撃に強くて加工もしやすいから,冷蔵庫や洗濯機,テレビ,ノートパソコン,旅行用キャリーケースなど,僕らの生活のいろいろなところに使われているんだよ(図2)。

花子 ふーん。でも胴体はPVCじゃいけないのかしら?

ケン 服の色がPVCに移ってしまうことがあるんだよ。

花子 それは困るわ。素材はいろいろ考えて選ばれているのね。

ケン PVCもABSも自然界には存在しない物質で,人が化学の力を使ってつくった素材なんだ。化学が僕たちのおもちゃを素敵にしてくれているんだね。

サッカーボールは何からできているの?

ケン 花子,花子!新しいボールを買ってもらったから,サッカーやらないか?

花子 お兄ちゃんが前から欲しがっていたボールね?

ケン そうなんだよ。これまで持っていたのは,黒い五角形12枚と,白い六角形20枚のパネルを貼り合わせた“切頂せっちょう二十にじゅうめんたい”だけれど,今度のボールは,パネルの形をいろいろに変えて数を減らして,より完全な球に近くなっているんだ。今までのとは飛び方が違うっていうから,確かめてみよう(図3)!

花子 ねぇ,ボールが何でできているかも知りたいんだけれど。

ケン もちろん,教えてあげるよ。中はいくつもの層構造になっているんだ(図4)。内側には,空気の入った風船“ラテックスチューブ”があるね。それを守る裏打ち布があって,外側を本革か人工的につくられた革のような素材“人工皮革”でおおわれているんだ。

僕のボールは,一番外側の人工皮革部分がポリウレタン(PU)というプラスチックの一種でできていて,表面がすり減らないようにラミネート加工されているんだ。ポリウレタン製だからちょっと高かったってお父さんが言っていた。ポリウレタンは弾性があるからボールが弾みやすくなる。ボールの作り方や素材によって飛び方が均一になったり,コントロールしやすくなったりもするそうだよ。ラテックスチューブの素材は,天然ゴムから合成ゴムに変わって空気が抜けにくくなったんだ。

花子 へぇ。新しい素材のおかげでサッカーボールもどんどん進化しているのね!!

考えてみよう!

今回は,3種類のプラスチックが登場しました。一口にプラスチックといっても性質が異なるため,使われ方が違っていました。それぞれの分子を見てみると,ポリ塩化ビニルは,化学反応によって塩化ビニルをたくさんつなげてできる分子です。つなげる数は特に決まっていません。ABSはアクリロニトリルとブタジエンとスチレンがつながっていますが,つながる順番も数も決まっていないので,ABSといってもメーカーによって違ったものを提供しています。ポリウレタンに至っては,ウレタン結合がある大きめの化合物のことです。暮らしの中にはほかにもありますから、探してみてはいかがでしょうか。

図 1
図 1: 花子のお人形。売られている時に入れられている箱を見ると何でできているかわかる。
図 2
図 2: ABSは暮らしの中のさまざまな場所で使われている。
図 3
図 3: お兄ちゃんのサッカーボール。今まで使っていたもの(左)と今回,買ってもらったもの(右)。左のようなデザインのボールは1970年に開催されたサッカーワールドカップ・メキシコ大会から使われている。右は,2006年のドイツ大会で使われたボールでパネル構成がまったく新しくなっただけでなく,画期的な技術革新もあった。
図 4
図 4: サッカーボールの基本構造。外側は本革製だったが,人工的につくられた革のような素材“人工皮革”も使われるようになっている。また,最近はポリウレタン層に表面がすり減らないようにラミネートを施したものもある。
参考資料:
世界のサッカーボール PERFECT BOOK(学習研究社)
プラスチック読本(第21版)大阪市立工業研究所/プラスチック技術協会

化学だいすきクラブニュースレター第42号(2019年7月1日発行)より編集/転載

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