化学だいすきクラブ

暮らしの化学 消えてなくなるわけじゃない 160年前のクリスマスレクチャー『ロウソクの科学』

暮らしの化学 消えてなくなるわけじゃない 160年前のクリスマスレクチャー『ロウソクの科学』

もうすぐクリスマス。

小学3年生の花子は,プレゼントもケーキも楽しみですが,年に一度,食卓にロウソクがともされるのを特に楽しみにしています。 そんな花子を見て,中学1年生の兄のケンが,「ロウソクの炎には化学がたくさん詰まっているんだ」と話し出しました。

こうして2人は,皿やスプーン、アルミホイルといった身の回りのものを使って簡単な実験を始めたのです(写真1)。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

ロウソクの炎について考える

花子クリスマスには食卓にロウソクを飾るのよね。

ケン今は,電気があるから,ロウソクを明かりとして使うことはほとんどないけれど,いい雰囲気だよね。特に僕は,ロウソクの炎が「燃焼」によるものだと思うと,ワクワクするんだ。

花子燃焼!花火が燃焼の1つだって,教えてもらったばかりよね。華やかな花火とはずいぶん違うわね。

ケンどちらも燃える「燃焼」で,そこにはいろいろな化学が隠れている。

花子そんなこと,どうしてわかるの?

ケン『ロウソクの科学』を読んだらわかるよ。今から160年前の1860年12月から翌年1月にかけて,イギリスの科学者のマイケル・ファラデーが,「ロウソクの燃焼」について,子供たちのためにクリスマスレクチャー(レクチャーとは講義のこと)をやったんだ。その内容をまとめた本なんだ。2019年にリチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野彰先生が,子供の頃に読んで化学の面白さを知ったと言っているね。

ロウソクが燃えると,1つは“水”ができる

花子『ロウソクの科学』には何が書かれているの?

ケンそれじゃ,ファラデー先生がやったことを再現してみよう!まずはロウソクが燃える様子を観察することから始めよう(写真2)。

花子ロウと芯からできているのよね。芯に火を着けると,炎の近くのロウが熱で融けて液体になって,上の方にたまっている。

ケンいいところに気付いたね。お椀みたいなくぼみに液体のロウがたまっている。これが,燃料だ。この液体のロウが芯を伝って上がっていくと,炎に近づいてもっと温度が上がって,気体のロウになる。これが燃えるんだ。ファラデー先生は,ロウソクの炎の根元の方にガラス管をさして,そこにある気体を外に導いて燃やして見せた(写真2)。炎のもっと上の方では,この気体は燃えてしまってもうないことも確認している。

花子ロウソクは燃えると,なくなってしまうものね。

ケンいやいや。そう見えるけど,手品じゃないから,実際には,ロウが燃えてできるものがあるんだ。それをファラデー先生にならって確認してみよう。まず,金属製のスプーンを炎にかざしてみよう(写真3)。

花子何だか濡れたわよ。

ケンそれは,水だよ。

花子どうして水ってわかるの?ロウの液体かも知れないでしょ。

ケンそこは確認しなくちゃいけないね。ファラデー先生は,この液体にカリウム(K)という金属を触れさせて,炎を上げる様子を見せ,「だからこれは水だ」と言っている。ちょっと危ない実験だから,うちではできないけれどね。

ロウソクの炎が明るいのはススがあるから

ケンもう1つ実験をやってみよう!同じ炎でも,ガスコンロの炎は青くて周りを明るく照らすことはできない。

花子青い炎は温度が高いって聞いたことがある。でも明るくないと,明かりとしては使えないわね。

ケンロウソクの炎を明るく輝かせている正体を捕まえてみよう。炎を観察すると,内側に暗い部分,外側に明るい部分があるね。ここに4つ折りにしたアルミホイルをかざす(写真4)。10秒くらい待ってね。

(ファラデー先生は紙を使ったが,燃えないようにアルミホイルにした)

花子うあ,黒いドーナツ模様ができた!

ケン黒いものはスス,つまり炭素(C)だ。明るい部分に多くあるね。このススが固体で,高温になるとキラキラ輝くからロウソクの炎は明るいんだ。固体が高温になると輝く様子を,ファラデー先生は鉄の粉などを熱して見せてくれるんだ。

花子それにしても,真っ黒なススはどこから来るのかしら?

ケンロウソクからだよ。ファラデー先生が燃やした,160年前のロウソクは,動物のあぶらを原料にできていた。最近のロウソクはパラフィンでできているね。どちらも主に炭素と水素からできていて,この炭素が真っ黒なススになって出てきたんだ。もう1つの成分の水素は空気中の酸素とくっついて,水になった。それが,さっきスプーンについた水の正体だよ。そして,ススもほとんどが空気中の酸素とくっついて,二酸化炭素という透明の気体になってしまう。炎から出てきた気体を石灰水という液体に通すと白く濁るから,二酸化炭素があるといえるんだ。こうしてクリスマスレクチャーでは「ロウソクが燃える時,燃料であるロウが空気中の酸素と反応して,水と二酸化炭素ができる」って見せてくれるんだ(写真5)。

花子じゃあ,これはお兄ちゃんのクリスマス・ミニレクチャーね!

ケンぜひ原著を日本語に訳したものを読んで欲しいな。ただ,たくさん実験をするのはたいへんだから,解説を加えたり実験を中心にした関連の本と合わせて読むのがお勧めだよ。そして,この燃焼と同じようなことが体でも起こっている,とファラデー先生は最後に話すんだ。呼吸で酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すことで,僕らは生きている。

花子私のクリスマスプレゼントは『ロウソクの科学』ね。それでお兄ちゃんともっと実験をしなくちゃ!

写真 1
写真 1: 花子とケンが用意した実験用具。どれも身近なものばかり。
写真 2
写真 2: ロウソクの炎。ファラデーは,ガラス管を差し入れて集めた気体が燃えることを実験して見せた。
写真 3
写真 3: 炎にスプーンをかざすと濡れる。燃焼によってできた水蒸気が,スプーン表面で冷やされて凝縮した。
写真 4
写真 4: 炎にアルミホイルをかざすと黒いドーナツ模様ができた。黒いものの正体はスス(炭素)。ススが熱せられて輝くので,炎は明るい。
写真 5
写真 5: ロウソクの燃焼。ロウの成分がそれぞれ空気中の酸素とくっついて,水と二酸化炭素になって,空気中に散らばっていく。
【参考】
『ロウソクの科学』 ファラデー 著,竹内敬人 訳,岩波文庫
『「ロウソクの科学」が教えてくれること』尾嶋好美 編訳,白川英樹 監修,サイエンス・アイ新書
『たのしいロウソクの科学 おとうさんといっしょ 実験・観察』伍井一夫 著,新生出版
『新ロウソクの科学―化学変化はどのようにおこるか―』P.W.ATKINS著,玉虫伶太 訳,東京化学同人

化学だいすきクラブニュースレター第46号(2020年12月1日発行)より編集/転載

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