化学だいすきクラブ

私と化学(中部大学・澤本光男)

この記事を書いた人: 澤本光男 さわもとみつお
中部大学・教授(総合工学研究所)/京都大学・特任教授(産官学連携本部)/日本化学会・常務理事/科学技術振興機構・研究主監/専門:高分子化学,高分子合成
中部大学・澤本光男氏

彩りのある科学

「ケミカル・ガーデン」(化学の花園)(図1)というのを聞いたことがありますか? 水ガラス(ケイ酸の水溶液)に硫酸銅などの金属塩を入れると,美しい色のついた樹木のような結晶が育ち,花園のようになることからこう呼ばれています。私も中学の「第一理科」(現在では「理科第一分野」)ではじめて接して「化学って美しい」と感じたことを今もおぼえています。熱心な理科や化学の先生に出会えたこと,その先生に惹かれて化学クラブ(第一理科クラブ)に入ったこと,父親がおもしろい理科の本を買ってくれたこと,なども理由ですが,同時にこの「美しい」「彩りのある」化学に接したのも,化学が好きになったきっかけのように思います。

「芸術的な化学合成」と賞賛されてノーベル化学賞を受賞したウッドワード(Robert B. Woodward)という米国の化学者は,まさしく「化学だいすき」であったと言われており,自宅に化学実験室をつくって,大学入学までに大学生用の化学実験をほとんど終えていたと伝えられています。それほど化学が好きであった彼は,また数学にも興味をもっていて,飛び級で大学進学を認められたときに,数学と化学のどちらに進むかを迷ったそうです。よく言われるように,完成した数学の公式は,簡潔であると同時に数式としての「美しさ」があり,これに惹かれたそうです。それでも,結局化学の途を選んだのは,化学には,ケミカル・ガーデンのように,結晶や溶液に様々な色があり,(数学にない)彩りと美しさがあるからだと,ある講演で述べています。[事実,ウッドワードは自分の娘をクリスタル(結晶)と名付けたそうです。]

結晶や溶液の色も美しいですが,化学では,「美しい分子」というのもよく話題になります。分子を構成する原子が目的に従って精密に配置され,思い通りの役割(機能)を果たしていると,たしかに分子は「美しく」ときに「彩りがある」ように見えます。分子模型をじっと見つめていると,確かに「美しい」と思います。とくに,私が専門とする高分子は,何百,何千の原子からできている,とても大きな分子ですが,その高分子が様々な形を取って形作られた模型を見ると,うまく設計され精密に合成された高分子ほど,美しさをもっているように思います。

化学は,こんな風に,無味乾燥な暗記物の学問では決してなく,突き詰めるほど,彩りがあり,美しさを感じさせる世界が拡がる科学です。皆さんも,自分で思い通りの美しい分子を作り,化学の美しさと彩りを早く実感してくれればうれしく思います。

図1
図1: ケミカル・ガーデン*

*(出典)宮沢賢治学会イーハトーブセンター会報第40号 http://www.kenji.gr.jp/kaiho-index/kaiho(index36_40).html

化学だいすきクラブニュースレター第37号(2017年12月1日発行)より編集/転載

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