化学だいすきクラブ

私と化学(国立高等専門学校機構・谷口功)

この記事を書いた人: 谷口功 たにぐちいさお
(独)国立高等専門学校機構 理事長/熊本大学 名誉教授 前学長/平成29年度日本化学会 筆頭副会長/専門:電気化学,生物電気化学
国立高等専門学校機構・谷口功氏

化学の新しい世界に挑戦しよう

私が「化学」と出会ったのは,都市ガスの製造工場だったと思います。子供の頃,父の勤務先がガス会社でしたので,故郷の奈良にあったガス製造工場に,時々,連れて行ってもらいました。実は,働いている皆さんがガス製造用の大きな釜の横で焼き芋を作っておられて,それが目当てだったのですが,釜に放り込んだ真っ黒い石炭がコークスと言われるものになる過程で,都市ガス(の成分となる一酸化炭素や水素)ができると言われて,とても不思議ですごいと思いました。勿論,その時には,反応の中身や意味はわかりませんでした。

小学校低学年の頃,ある朝,校長先生が「学校に遅れるよ」と言って,先生の自転車の荷台に乗せてくれました。先生に「何で,空は青いの?雲は白いの?」と聞いてみると,校長先生は「勉強をすると,みんなわかるようになるよ」と話してくれました。それから自分でいろいろ調べ「勉強」らしきものをするようになり,自宅の庭の小屋で「実験」を楽しみました。こうして,故郷の大学附属の中学校・高等学校で化学クラブに入って,実験室にあった道具や薬品を使って,ろ紙でインクの色素の分離するペーパークロマトや電池の起電力測定など,様々な「実験」をさせてもらい,学園祭などで展示を出して楽しみました。先生や先輩から多くを学び,部員にも支えられてクラブの部長も務めました。

その後,私は他の人とは違った大学に行きたいと思ったのと東京への憧れもあって,同期生で私一人が東京工業大学に進学しました。専門は化学を選んだのですが,大学での化学の合成実験があまり上手にできませんでした。計算通りの実験結果が得られる電気の世界が面白いと思ってたところ,ある日,講義で「我々の身体は電気化学反応でできている」と聞いて,この言葉に惹かれて,電気で化学反応をやれば良いと変に納得して電気化学を勉強することにしました。その後,当時始まったばかりの新しい「生物電気化学」の分野で仕事をさせていただくことになりました。

私は,自分の経験から,他の人と少し違うことをやると結構面白い世界が広がると思っています。これから活躍する皆様には,「新しい世界に挑戦して,人と違うことをやるのは,楽しいこと」と言い続けたいと思います。

エネルギー
エネルギー: 光合成による蓄積/人間による消費/燃料電池による電気エネルギーへの変換

化学だいすきクラブニュースレター第38号(2018年4月1日発行)より編集/転載

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