化学だいすきクラブ

私と化学(2018・2019年度日本化学会会長・川合眞紀)

この記事を書いた人: 川合眞紀 かわいまき
2018・2019年度日本化学会会長/自然科学研究機構分子科学研究所長/日本学術会議会員
2018・2019年度日本化学会会長・川合眞紀

東京上野の国立科学博物館の正面玄関を入った先,階段の吹き抜けにフーコーの振り子があります。上野の国立科学博物館のフーコーの振り子は長さ19.5 m,重さ49.6 kgというサイズです。上野以外にも北は北海道から南は九州まで,国内にはたくさんあるので,見たことがある人も多いでしょう。

物理学者だった父はふと散歩に出ることがあり,小学生のころに誘われて何回か国立科学博物館に連れて行ってもらったことがあります。今は地下一階が入り口になっていますが,かつては,今は日本館と呼ばれる建物の一階玄関から入館したように思います。入るとすぐに吹き抜けの広いロビーがあり,博物館名物の大きな恐竜が展示されていました。父は恐竜にはさほど興味を示すことなく,さっさと中央ロビーを通り過ぎて左側の階段までまっすぐに進みます。階段の吹き抜けの天井に固定された長い金属線は地下一階まで届いていて,その先に吊るされた大きな金属球がゆっくりと規則正しく揺れています。

金属球が揺れるさまを父につられて眺めていると,「この振り子は少しずつ回転するんだ。それは地球が自転しているからなんだよ。」と,事実だけを教えてくれます。小学生には正確な意味を理解することはできませんでしたが,天井から吊り下げられたこの金属球が宇宙に繋がっているような気がして,とてつもなく凄いものに見えたのと同時に,少し怖くも感じました。

小学生には「不思議」で少し「怖い」振り子の動きでしたが,その後,中学の数学で二次方程式を学び,高校の物理で重力加速度を学ぶと,フーコーの振り子が基本的な運動方程式で正確に,しかも定量的に説明できることを理解しました。「不思議」が「説明できる面白い」現象に変わる瞬間でした。「怖さ」が「楽しさ」に変わりました。

化学の研究をしていると,はじめは「不思議」に見える現象であっても,観察や計測をすることでその現象を「説明できる」ようになります。新しい規則性が見つかれば,それは科学の「発見」です。説明できない現象を見つけたら,何かの発見に繋がる可能性があります。不思議を探してみませんか。

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写真: 東京上野の国立科学博物館 日本館正面
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写真: 国立科学博物館 フーコーの振り子

化学だいすきクラブニュースレター第40号(2018年12月1日発行)より編集/転載

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