化学だいすきクラブ

活躍する化学 インフルエンザウイルスの検出技術 ~見えないものを見えるようにする技術~

この記事を書いた人: 片田順一
富士フイルム株式会社 R&D統括本部 医薬品・ヘルスケア研究所

インフルエンザの検査は,患者さんの鼻の奥から鼻水を採取し,その中にインフルエンザウイルスがあるかないかを調べます。すぐに結果がわかる簡単な検査方法として,イムノクロマト法という方法があります。インフルエンザウイルスに小さな金微粒子(直径0.05マイクロメートル)を目印として付着させることで,この目印の金微粒子が多く集まることで目で見えるようになり,ウイルスがあることがわかるようになります。しかし,この方法ではウイルスの数が多い場合しか検査できず,インフルエンザにかかり始めで体内にウイルスが少ない場合には検査することができませんでした。目印である小さな金微粒子を大きくすることができれば,少ないウイルス量でも検査できるはず! そこで開発されたのが銀増幅イムノクロマト法という写真現像の技術を応用した方法です(図1)。

(※)1マイクロメートル=1ミリメートルの1000分の1の大きさ。

写真では,フイルムに光が当たると化学反応が起こり,小さな銀の微粒子ができます。このままでは目に見えない反応ですが,この小さな銀の微粒子を現像液という液で処理することで,小さな銀粒子を中心にして,大きな銀の粒子に成長させ,写真としてプリントすることができるようになります。銀増幅イムノクロマト法では,この技術を応用することで,目印を小さな金微粒子から大きな銀の粒子をつくる化学反応を起こします。この方法を用いると,目印をわずか1分程度の化学反応で約200倍の大きさに大きくすることができます。目印を大きくしたことで,より少ない数のウイルスであっても,目で見ることができるようになりました。

銀増幅イムノクロマト法は,病院での検査にすでに応用されてきています。みなさんがインフルエンザにかかったときに,この方法で検査してもらっているかもしれませんよ。このように,化学反応が病気の検査にもたくさん使われています。人の命や健康を守るためにも化学は役立っています。

図1
図1:

銀増幅イムノクロマト法の原理

金微粒子の目印(左図,直径0.05マイクロメートル)を,写真現像を応用した化学反応を起こさせることで,約200倍の大きな目印(右図,直径10マイクロメートル)にすることができる。

化学だいすきクラブニュースレター第40号(2018年12月1日発行)より編集/転載

先頭に戻る