化学だいすきクラブ

私と化学(豊田理化学研究所所長・玉尾皓平)

この記事を書いた人: 玉尾皓平 たまおこうへい
豊田理化学研究所所長/国際周期表年実行委員会委員長
豊田理化学研究所所長/国際周期表年実行委員会委員長・玉尾皓平氏

今年は「国際周期表年」です。元素の大切さを再認識しよう!

「化学だいすきクラブ」の皆さんは「元素周期表」もだいすきでしょうね。

学校の理科室には必ず貼ってある「元素周期表」には縦に18列,横に7段とその下の2段に,一番軽い元素(水素H)から重い元素の順に,118個の元素が,ある規則に従って整然と並んでいます。

その規則の基になる「周期律」を1869年に初めて完成させたのが,ロシアの化学者,ドミトリ・メンデレーエフで,今年はその150周年にあたります。また,2016年11月28日には,理研の森田浩介博士率いるグループが発見した113番元素ニホニウムNhを含む4つの新元素名が確定して,確認された元素の数は118に達し,第7周期までが完成しました。これらのことを記念して,ユネスコと国連が,「国際周期表年2019」を制定しました。世界中で,周期表の重要性,美しさを祝う行事が企画され,既に始まっています。

日本でのイベントに関してはhttps://iypt.jpをご覧ください。中高生・大学生向けの「私たちの元素―エッセイコンテスト」もあります。好きな元素,興味ある元素を選び,友達と話しあって作文を応募してください。「化学だいすきクラブ」の夏休み「周期表年特別イベント」もお楽しみに。

ここで示した周期表は,天然元素と人工元素を色分けして示しました。118種類の元素のうち,自然界に存在するのは89種類,残りの29種類は人工的に作られたものです。天然から最後に発見された元素は87番のフランシウムFrで,1939年のことで,今年は,天然元素発見完結80周年記念の年でもあるのですね。最初の人工元素は43番テクネチウムTcで1937年のことです。それからやはりほぼ80年かかって人類は118番元素まで到達しました。すごいことですね。

さて,宇宙の果てから身の回りのものまで,そして自分の体もすべて元素でできています。科学者達は元素の性質を詳しく調べて,豊かな現代社会を支える物質を創ってきました。私たちが制作し普及をはかってきた「一家に1枚周期表」には,元素毎に科学技術の恩恵を実感できるように工夫してあります。今では誰もが持っているスマホには金Au, 銀Ag, 銅Cuはもとより,H, C, O, Mg, Al, Si, P, K, Ti, Fe, Co, Ni, Zn, Ga, As, Y, Zr, In, Sn, Sb, La, Nd, Eu, Gd, Tb, Dy, Ta, W, Pbなどを含めた30種類余もの元素が使われています。地球上にわずかしか存在しない希少な元素も沢山使われています。使い続ければいつかは無くなります。金や銀は10数年,銅でも30年ほどでなくなるともいわれています。

さて,どうすればよいでしょうか。科学技術の出番です。二つのことをあげます。一つは,もっと沢山存在する元素を使って同じような,あるいはそれを超える物質を創って置き換えること,二つ目は,使われなくなった古い携帯電話やパソコンなどから希少な元素を回収してリサイクルする(「都市鉱山」とよばれる)技術を確立することです。最初の方は,日本では「元素戦略」という研究が進んでいます。後の方の挑戦も,東京オリンピック2020の金,銀,銅メダル5千個分が作れる段階まできたそうです。

このような有限な地球の元素資源問題の解決のために,今こそ科学者たちの挑戦が必要です。若い皆さんに託されています。「国際周期表年2019」を,元素の大切さを若い人たちと一緒に考える機会としたいですね。

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図: 元素周期表

化学だいすきクラブニュースレター第41号(2019年4月1日発行)より編集/転載

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