化学だいすきクラブ

私が化学を選んだ理由(東京大学特別栄誉教授・藤嶋 昭)

この記事を書いた人: 藤嶋 昭 Akira Fujishima
財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長 東京大学特別栄誉教授 2006年度、2007年度日本化学会会長 「本多−藤嶋効果」で有名
東京大学特別栄誉教授・藤嶋 昭氏

アサガオはいつ花を開くのか

私の小学校は愛知県の山の中の全校生徒70人にも満たない学校でした。同級生は15人,卒業して50年以上が過ぎましたが全員が健在ですし,82歳になられる担任の先生と今も親しくしていただいています。蛍を追いかけ,満天の空から落ちる流れ星を数えるのが楽しみでした。そして中学校からは上京し,時代の流れと共に工学部へ進み,そのまま研究がおもしろくなり,現在に至ってしまいました。

今も身の回りのありふれた草花の美しさに感動する毎日です。最近も勤務先の神奈川科学技術アカデミーから,「アサガオはいつ花を開くのか」という本を出版しました。

アサガオはいつ花を開くかご存知ですか。6月のアサガオと,10月のアサガオでは,花を開く時が違います。何をベースにしてアサガオは開くのか知っていますか。暗くなって,大体,10時間後に開くわけです。6月のアサガオは,日の入りが遅いですから5時ごろに開きますが,10月のアサガオは,日の入りが早いですからもう3時ごろに咲いてしまいます。つまり,暗くなったというのを知っているのがアサガオです。

もっと面白いのはつるの巻き方です。台風とは違って,南半球とか北半球には関係ありません。アサガオは必ず右まきです。他のつるを持つ植物はどうでしょうか。つるの巻き方にも全部ルールがあるのです。

タンポポは,日本タンポポと西洋タンポポがありますが,今では日本も,西洋タンポポに牛耳られています。なぜでしょうか。日本タンポポは受粉しないと増えませんが,西洋タンポポは花粉を作らなくても自分で種子を作ることができるそうです。しかも,綿毛には200個くらいの種があり,それが色々なところに飛んでいきます。だから,日本中,あるいは世界中,西洋タンポポです。このタンポポは利口ですよ。ヨーロッパでは,タンポポは農夫の時計と言われていて,明るくなったら開き,暗くなると閉じる。しかし,もっと面白いのは,温度まで感じています。13℃よりも高いときは開きますが,13℃より低いときは,13℃以上になるまで待つそうです。光があって,13℃以上になることが条件だそうです。どこにそんなセンサーがあるのか不思議です。

私は今,雑草に関心があります。だから,どこを歩いていても面白いです。何という名前か少しずつ覚えるようにしています。皆さんがよく知っている猫じゃらし。正式名はエノコログサです。エノコロとは子犬という意味です。子犬のしっぽからきているのでしょう。英語ではフォックステール・グラスです。キツネのしっぽです。つまり,こんなありふれたどこにでもある雑草1つとっても,猫と犬とキツネ,3つの名前が使われているのです。雑草にも全部名前があります。1つずつでも雑草の名前を覚えましょう。

写真1
写真1: アサガオ
写真2
写真2: エノコログサ

化学だいすきクラブニュースレター第10号(2009年1月20日発行)より編集/転載

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