化学だいすきクラブ

私が化学を選んだ理由(早稲田大学理工学総合研究センター顧問・山本明夫)

この記事を書いた人: 山本明夫 Akio Yamamoto
1971年東京工業大学資源化学研究所教授 1990年早稲田大学理工学研究科客員教授 2000年早稲田大学理工学総合研究センター顧問研究員 1995年度日本化学会会長
早稲田大学理工学総合研究センター顧問・山本明夫氏

始めから化学が好きだったわけではなかった

将来の脂肪を決めるとき,迷うのは普通であろう。私の場合には,旧制中学の4年生になっても,自分が文化系に向いているのか,理科系に向いているのか,分からなかった。父が化学だったので,自分も多少は理科向きの素質があるかもしれない,というのが,応用化学科に進学した理由だった。進学した早稲田大学の応用化学科でも,学部時代までは卒業研究を除いて,暗記することが多くて,化学の勉強はあまり面白いとは思えなかった。

研究を始めるようになってから,はまった

化学が面白い,と思うようになったのは,自分で研究を始めるようになってからである。学部から大学院へ進んだとき,東京工業大学の神原周教授を指導教官に選び,先生から提案されたテーマの一つを選んで,自分で研究をするようになってから,その面白さにはまった。

今,自分がやっているテーマは,世界でも限られた人しか研究していないテーマである。そこで見出した実験結果は,世界中で,たぶん自分しか知らないものだ,という高揚感があった。世界のどこかにいる競争相手と競争しているのだ,というスリルがあった。その成果は英文で学会誌に発表することによって初めて,世界で最初のものだ,と認知される。しかし,誰かが,もうやっていて,抜かれるかもしれない。その緊張感は,独特だった。

たまたま選んだ分野が有機金属化学という,当時急速に発展している最中の分野だったおかげもある。フェロセンやチグラー触媒などという新顔の化合物や画期的触媒が発見されたころで,何をやっても新しいことばかり,という時代だったためもある。

面白さが分かれば,やる気が出る

やっていることが面白くて,やる気が出れば,ひとに命令されなくても,自分で工夫する。その結果,ささやかな結果が出れば,また面白くなって勉強をし,工夫をする。こうして私は半世紀を,研究と,その成果を人に伝えることに使ってきた。

秀才でなくてもいい

化学の有り難いところは,必ずしも秀才でなくてもいいという点である。(秀才なら,なおいいが。)秀才でなくても出来る面白いことは一杯ある。それなりの生き甲斐も味わうことが出来る。化学は,自分の人生を賭ける選択肢の一つとして考える値打ちがある。

写真
写真: 実験イメージ

化学だいすきクラブニュースレター第6号(2008年1月10日発行)より編集/転載

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