化学だいすきクラブ

暮らしの化学 さまざまな役割の食品添加物 食品に含まれている「これって何?」

暮らしの化学 さまざまな役割の食品添加物 食品に含まれている「これって何?」

「今朝は私がつくる。パンとハムエッグとサラダとミルクティー!(写真1)」

と言ったきり,花子は台所から出てきません。

どうしたのかと兄のケンが見に行くと,ハムに見入っています。

化学好きの小学3年生 花子の心を捉えたのは,そのきれいなピンク色。

ピンク色の正体は「食品表示」を見るとわかると,中学1年生のケンが教えています。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

ハムを美味しそうなピンク色にする「発色剤」

ケン 花子~,朝食まだ?

花子 お兄ちゃん,ハムって,本当にきれいなピンク色をしているわね。だから美味しそうなのよね。

ケン それで,また手が止まっていたのか。このピンク色には,ちゃんと理由があるんだよ。食品表示を見てみよう(写真2)。「発色剤(硝酸しょうさんNaナトリウム)」と書いてあるね。これがハムをピンク色にするために入れられている物質なんだ。

花子 ということは,亜硝酸Naは“きれいな赤色”なのかしら?絵の具なら,白に赤を混ぜるとピンクになるでしょ?

ケン いやいや。白い粉なんだ。「発色剤」は,それ自体は色をもってないけれど,食べ物の中の成分と反応して色素をつくって発色させるんだ。亜硝酸Naの場合は,肉の中のヘモグロビンやミオグロビンの赤色を保つ働きがあるから、肉の色が悪くならない。そうそう。ロールキャベツの肉がピンク色になっていることがあるね。あれはキャベツに亜硝酸Naの仲間の硝酸えんが含まれているからなんだ。

花子 へぇ,そうなんだ。今度よく見てみるわ。そういうことなら,かき氷のイチゴシロップの赤(写真3)は,発色剤ではないってことね?

ケン そうだね。今度はかき氷シロップの食品表示を見てみよう。イチゴの果汁が入っていて赤いものもあるけれど,うちのは何だろうね?

花子 この「コチニール色素」じゃない?

ケン そのとおり!コチニール色素(別名,カルミン酸)は,着色料だよ。植物に寄生してその樹液を吸って生きる“カイガラムシ”という小さな昆虫から抽出(水で煮出す)した赤い色素なんだ。コチニールカイガラムシが,アリなどの天敵に食べられないためにつくっている物質だから不快な味がするらしい。でも,人間はこれを赤い色素として使っているんだね。実は,ハムに入っていることもあるんだ。コチニールのように自然の動植物から抽出された赤い色素には,ほかに赤キャベツ色素や紫イモ色素などがある。

一方で,赤色2号,赤色102号といった人が合成したものもあるんだよ。

花子 へぇ,着色料はいろいろあるのね!

デキストリンは食品添加物ではないけれど

ケン 発色剤も着色料も食品添加物なんだ。食品添加物とは,食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用されるもので,ほかには保存料(長持ちさせる)や甘味料(甘みを加える),香料(香りを加えて美味しくする)などがある。ハムに入っていた亜硝酸Naは細菌の増殖を抑えるから,保存料としての役割もしているってことだね。

花子 食品添加物はいろいろなことをやってくれているのね。そうだ。このミルクティーには「デキストリン」という成分が入っているんだけれど,これも食品添加物なのかしら?

ケン これは食品添加物じゃなくて,原材料だね。食品表示(写真4)を見ると,「原材料名」の後に「牛乳,砂糖・・・食塩」と続いて“/”があってから,「乳化剤,香料・・・」と続くでしょ。この“/”の前が原材料で,後に食品添加物を書くという決まりがある。だから,デキストリンは原材料。

花子 何のために入っているのかしら?

ケン 花子は,米やパンに含まれている“デンプン”は知っているよね?デンプンの分子はとても長くて水に溶けないけれど,加熱したり,酵素処理したりして,切れて短くなると水に溶けるようになる。これがデキストリンだ。水に溶かすと強い粘着力があるから,いろいろな場所で使われている。食品では,とろみをつける“増粘”や分散している成分が沈まないようにする“安定”といった役割をしている。食品以外では,水性塗料や繊維の仕上げ,かつては切手の糊に使われていたこともあるんだ。

花子 わぁ,デキストリンは大活躍ね。それにしても家でミルクティーを入れるなら,紅茶を入れて,それにミルクを加えればいいだけなのに,買ってきたミルクティーには,いろいろなものが混ぜられているのね。

ケン 加工食品は,すぐ食べるわけではなかったり,加工の過程で香りや色が失われてしまったりするから,こうして家庭では加えないものが入っているんだ。

花子 安全なのかしら?

ケン それが一番気になるよね。日本で使われている食品添加物は国が定めた安全基準をクリアしている。でも人によっては体に合わないものがあったりするよね。食品に使用した添加物は,原則すべて表示することになっているから,気になったら,食品表示を見て調べることが大事だね。それにしても,お腹が空いたよ。手伝うから,早く朝食にしよう!

写真 1
写真 1: 花子が目指した朝食の献立
写真 2
写真 2: いろいろなロースハム。①発色剤も着色料も添加されていない,②発色剤(亜硝酸Na)が添加されている,③発色剤(亜硝酸Na)も着色料(コチニール色素)も添加されている。花子のうちにあったのはどのハムだったでしょうか?(解答はページ最下部)
写真 3
写真 3: イチゴのかき氷。かき氷の赤は発色剤では出せない。
写真 4
写真 4: ミルクティーの食品表示。原材料が牛乳,砂糖,紅茶,全粉乳,脱脂粉乳,デキストリン,食塩。食品添加物としては,乳化剤,香料,ビタミンCが入っている。
参考資料:
『澱粉科学の事典』(朝倉書店,2003年)
「ホントに知っていますか?食品添加物のこと」(味の素ホームページ) https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/know/additives_01.html
今さら聞けない肉の常識 第6回『なぜ,ハムはピンク色か』 http://www.agr.okayama-u.ac.jp/amqs/josiki/06-9311.html
『発色剤って何?』(大山ハム株式会社) http://daisenham.sanin.jp/?id=659

*ウェブサイトいずれも,2020年4月現在

解答:② 花子とケンは発色剤でハムが赤くなることに驚いています。花子のうちでコチニール色素が使われているのは,かき氷のイチゴシロップでした。

化学だいすきクラブニュースレター第43号(2019年12月1日発行)より編集/転載

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