化学だいすきクラブ

私と化学(名古屋大学教授・八島栄次)

この記事を書いた人: 八島栄次 やしまえいじ
名古屋大学教授 2019年度日本化学会副会長 [専門]高分子化学
名古屋大学教授・八島栄次氏

小学生の頃,人や風景のスケッチをするのが好きで,お箸の先を削ったペンと墨汁を使って,近くに住んでいた祖父や祖母の顔や姿をよく描きに行っていました。「上手だね」と言ってもらってはお小遣いをもらい,それがうれしくて何度もスケッチしに行ったことを覚えています。実際に上手だったかどうか,その当時のスケッチが残っていないのでわかりませんが,この時の思い出が少なからず影響してか,将来は建築家のような職業につきたいと何となく思うようになりました。結局,建築家ではなく,化学者になったわけですが,つくりたい建物を思い描きながら設計して建てていく様子は,分子を設計してつくる(合成する)過程ととてもよく似ていると思います。

「らせん」の形をした分子や高分子の研究をはじめて30年以上になります。まわりを見渡すと,らせん階段やバネ,ネジ,巻き貝やアサガオのつるなど,実に様々の「らせん」があることがわかります。今から思い起こすと,小学生の夏休みの頃でしょうか。庭に植えたアサガオを育てていたとき,立てた棒にそってアサガオ(写真)のつるがらせん状にぐるぐる巻き付きながら成長していく様子を見て,不思議に思ったことを覚えています。自然界の「らせん」との最初の出会いです。アサガオのつるがすべて右巻きに巻いていることを「らせん」の研究を始めてから,友人の仁田坂博士(九州大学)から教わり,さらに興味がわきました。どうして右巻きで,左巻きではないのでしょうか?

私たちを含め,地球上のあらゆる生き物の細胞の中にあるDNAは,目に見えないほど小さい分子がたくさんつながってできた高分子からできていて,みな例外なく右巻きです。しかも,二重にからみあった二重らせん(図)です。どうして右巻きなのでしょう?実はまだ,明確な答えがないのです。さきほどのアサガオのつるの右巻きらせんは,このDNA(遺伝子)が決めているらしいです。面白くて,とても不思議ですね。

今,DNAと同じ右巻きの二重らせんを化学合成しようとしています。できつつありますが,まだまだ天然のDNAにはおよびません。でも,分子を一つずつつくってそれをつなげていく研究はとても面白く,思いもよらない小さい発見に出会うことがあります。とてもワクワクする瞬間です。目に見えないほど小さい分子を思いどおりに設計して組み立てる「分子の建築家」になりませんか?

写真
写真: アサガオ(画像提供:九州大学/NBRP 仁田坂英二先生: http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/index.php
図
図: DNAの右巻き二重らせん構造(Anatomy and Physiology (OpenStax), Houston, Texas, Apr 25, 2013)

化学だいすきクラブニュースレター第43号(2019年12月1日発行)より編集/転載

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