私と化学(三井化学株式会社 研究開発本部長・福田伸)
私は「化学」が苦手でした,今でも得意とは言えませんが,中学校までは「理科」は好きでした。高校に入ると「理科」が,「化学」「物理」「生物」「地学」に分かれました。そして3年間が経過して,高校を卒業するころにはすっかり「化学」が苦手になってしまったのです。なぜ「化学」が苦手になってしまったのか自分なりに考えてみると「化学」は憶えることが多かったからだと思います。いろいろなことを憶えること自体が私は苦手だったのです。
さて「物理」はまず大きな原理原則があり,その単純な原理原則から自然現象を説明しようとしますね。例えば高校にはいるとまずニュートンの運動方程式を教えてもらいます。この単純な原理原則で,「テニスや野球のボールがどのように飛ぶのか」から「ロケットの軌道や惑星の運動」まで説明できてしまう訳です。憶えることは少ないはずですね。また,皆さんの身の回りにあるスマホやパソコンがなぜ動くのかを理解するための電磁気学ではなんとたった4つの『マックスウェル方程式』が基本となりすべての現象を説明します。興味のある人は是非大学で勉強して下さい。
一方「化学」はまず「元素」なるものがあります。周期表では「すいへーりーべー…」と憶えないといけないですね。さらに,いろいろな「元素」の性質は「憶えなければいけません」。鉄やニッケルは磁石にくっつくけど,銅やアルミニウムは磁石にくっつきませんね。炭素は炭素として,酸素は酸素の性質として憶えることがありますね。さらに,それぞれの元素が結合した化合物となるとさらに「厄介です」。二酸化炭素も一酸化炭素もあります。周期表では酸素と硫黄は同じ「列」にあります。二硫化炭素はありそうですが,一硫化炭素ってあるんでしょうか?少しでも違えばそれぞれ性質は異なるので憶えましょうということになります。元素の順列組み合わせは本当に無限ですね。ところが,こんな私ですがひょんなことから大学では「化学」系の核融合炉材料の研究室に入ることになりました。核融合に興味があったからですが,ここで出会ったのが後に宇宙飛行士となった毛利衛先生です(写真)。結果たくさんのことを勉強できました。「化学」が引き合わせてくれた「縁」ということです。先ほど「組み合わせは無限」と書きましたが,これは別の見方をすると「化学には無限の可能性がある」ということです。これが「化学」の面白いところです。もちろん,「物理」も「生物」も面白い。これから皆さんはいろいろなことを勉強することになると思いますが,まずは面白いとおもったことは一生懸命やってみて下さい。必ず良いことがあります。
化学だいすきクラブニュースレター第44号(2020年4月1日発行)より編集/転載