化学だいすきクラブ

暮らしの化学 過剰な免疫反応をどう克服するか くしゃみ,鼻水が止まらない「花粉症」

暮らしの化学 過剰な免疫反応をどう克服するか くしゃみ,鼻水が止まらない「花粉症」

2月から4月はスギ花粉がたくさん飛散する季節です(写真1)。

小学3年生の花子は,毎年この時期になると中学1年生の兄のケンのくしゃみが止まらなくなるのが心配です。

ケンは「花粉症だから仕方ないんだ」と話し,今年も乗り切ろうとしています。

花粉症とはどのような病気で,どのように対策したらいいのでしょうか。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

辛いくしゃみ,鼻水,鼻づまり…

ケンハックション!!ハックション!!

花子はい,ティッシュ。毎年,この時期になるとくしゃみばかりしているわね。

ケン(鼻をかみながら)花粉症なんだ。ハックション!!

花子花粉って,おしべの先端にある粉よね?

ケンああ。スギのように花粉が風によって運ばれる植物(風媒ふうばい)は,虫などが花粉を運ぶ植物(虫媒花)よりもたくさん花粉をつくって遠くまで飛ばすんだ。この花粉が原因で,くしゃみや鼻水が止まらなかったり,鼻がつまったり,目が赤くなったりかゆくなったり,涙が出たりするのが花粉症なんだ。原因になる花粉の種類は,日本では50種類以上報告されていて,一年中,何かしらの花粉が飛んでいる。僕の場合は,スギ花粉に反応するから,2月から4月が特に辛いんだよ。

花子コショウで鼻がムズムズして,くしゃみが出るのと同じ感じなの?

ケンくしゃみが出るのは,体が何かを外へ出そうとしているってことだよね。ただ,くしゃみが出る仕組みが違う。コショウの場合は,からみ成分が鼻の内側の神経を刺激してくしゃみが出るんだけれど,花粉症の場合は,体のもっと深いところで反応が起こっているんだ。だから,くしゃみが止まらなくなる。

花子もっと深いところの反応ってどういうこと?!

ケン僕らの体には,病原菌やウイルスなど“危険なよそ者”の侵入を防ぐために「免疫」という仕組みが備わっている。「花粉症」は,この免疫が花粉に反応して起こるんだ(図1)。

花子でも,花粉は病原菌やウイルスと違って危険じゃないでしょ?

ケンそうなんだよね。花粉症は,花粉に対して過剰な免疫反応が起こるアレルギー疾患なんだ。症状がひどくなって,日常生活に支障が出て困っている人は結構いるんだ。

花粉を体に入れない“予防”が大切

花子花粉はその辺を飛んでいるから,対策をするのは難しそうね?

ケンまずは,花粉を体に入れないようにすることだ。天気予報の花粉飛散情報は欠かさず見ているよ。花粉が飛んでいる日に外出する場合は,マスクをする,メガネをかける,帽子をかぶる。衣服も表面がツルツルした花粉の付きにくいものを選んでいるし,家に帰ってきたら,外側に着ているものは玄関で脱いで,部屋に花粉を持ち込まないようにしている。さらに,うがいや手洗い,洗顔で花粉を洗い流す。重症化しないためには,規則正しい生活やバランスのとれた食事も大事だって言われているね。

花子特に,外に出る時のマスクは欠かせなさそうね。

ケンコロナウイルスの感染予防対策でも言われているけれど,大事なのは,いかに花粉やウイルスを通さないかという点だね。だから,まず自分の顔にぴったり合うものを選ばなくちゃならない。それから多くのマスクに,「花粉粒子99%カット,PFE 98%,BFE 97%,VFE 96%」などと書かれているね(写真2)。これが,第三者機関での試験によって確かめられた,花粉やウイルスをどれだけ通さないかの性能なんだ。

それから面白いのは,マスクの穴がどのくらいなら,花粉やウイルスを通さないかを予測する計算式というのが知られているんだ。それによると,花粉やウイルスは空気中にある分子に体当たりされてフラフラと運動(ブラウン運動)しているから,案外大きな穴でも通過できないんだ。ウイルスは花粉よりもずっと小さいけれど,最近のマスクの性能で十分に捉えられるんだよ。

花子そうなのね。花粉やウイルスを通さない働きをするマスクのフィルター部分は,表示を見ると,ポリプロピレンという素材でできているものが多いみたい。

ケンポロプロピレンは,炭素(C)と水素(H)からできている高分子だよ(図2左)。

花子プラスチックみたい(図2右)。

ケンそう。プラスチックの一種で,それを布状に加工(不織布という)してマスクをつくっているんだ。

薬を使って症状を和らげる

花子薬を飲むこともあるでしょ?

ケンあるよ。花粉症の辛いくしゃみや鼻水の原因は,体内で放出されるヒスタミンやロイコトリエンという物質だね。これらの物質が神経や血管に作用するのを妨ぐ薬(抗ヒスタミン薬,抗ロイコトリエン薬)や,これらの物質がそもそも出ないようにする薬(化学かがく伝達でんたつ物質ぶっしつ遊離ゆうり抑制よくせいやく)が,飲み薬や鼻や目につける薬として売られている。

花子症状を和らげてくれるのね。根本的に治すことはできないの?

ケン僕はやったことはないけれど,花粉の抽出液を低い濃度から徐々に濃度を上げながら長期間にわたって注射する「減感げんかん療法りょうほう」という方法がある。体がだんだんと花粉に慣れて,根本的に治るらしいよ。でも,まだ多くの人がマスクをしたり,症状を和らげる薬を使ったりして花粉症の季節を乗り切っているんだ。

花子お兄ちゃんは今年も花粉症シーズンを乗り切らなくちゃならないのね。私も花粉を家に持ち込まないように気を付けるわね。

写真 1
写真 1: スギ花粉
図 1
図 1: 花粉症のメカニズム “危険なよそ者”を排除するために体に備わっている「免疫」が,花粉に過剰に反応してしまった結果,花粉症が起こる。花粉を,くしゃみで吹き飛ばし,鼻水で洗い流し,鼻づまりで体内に入れないようにしている。
写真 2
写真 2: 花粉粒子を平均で99%カットするほか,PFEが約0.1 ㎛(1 ㎛は1000分の1 ㎜)サイズのウイルスなどの粒子を,BFEが約3 ㎛の花粉や細菌やくしゃみで発生した飛沫などを,VFEが約0.1~0.5 ㎛のウイルスを含む粒子を,それぞれどれだけ通さないかを表している。
図 2
図 2: ポリプロピレンの化学構造(左)。炭素と水素からできた高分子。生活の中で見つけたポリプロピレン製品(右)。食品用プラスチック容器。
【参考】
的確な花粉症の治療のために(第2版):https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf
花粉症の話(エスエス製薬 アレジオン):https://www.ssp.co.jp/alesion/hayfever/
花粉症ナビ(協和キリン):https://www.kyowakirin.co.jp/kahun/about/about.html#
一般財団法人カケンテストセンター:https://www.kaken.or.jp/test/search
「エアロゾル:ミクロとマクロの出会うところ」 東京農工大学・農学部 原 宏:https://www.applc.keio.ac.jp/~tanaka/lab/AcidRain/第34回/1.pdf

*ウェブサイト・PDFはいずれも,2021年7月現在

化学だいすきクラブニュースレター第47号(2021年4月1日発行)より編集/転載

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