元素ファミリー 壁画と元素たち
皆さんは,古の時代に描かれた壁画をご存知ですか。
今回は,いくつかの壁画にまつわる世界を化学の目で見てみます。
歴史や美術の中に化学の痕跡をみつけるのは楽しいものですよ。
洞窟の壁画とフレスコ画
人類が描いた絵画は,洞窟の壁画として残っている。壁画には,主に鉄を含むベンガラ(写真1)と呼ばれる赤褐色の顔料や黄色の顔料が使われている。また,黒色の顔料には,炭素を含む煤や二酸化マンガンMnO2などがある。そして,写真2の壁画は,白色の炭酸カルシウムCaCO3を主成分とする石灰岩の上に描かれた。これは,水酸化カルシウムCa(OH)2(消石灰)などから作る漆喰(写真3)に描くフレスコ画(写真4)に似ており,水に溶けにくく保存に適していたと考えられている。
古墳の壁画と鏝絵
西暦700年前後の飛鳥時代につくられた高松塚古墳なども,漆喰の壁に絵(写真5)が描かれていたため,長く保存されたと言われている。高松塚古墳は詳細に研究されており,白色の全ての箇所からカルシウムと鉛が検出されている。また,赤色の一部から水銀,黄色からカルシウム,鉛,微量の鉄,緑色や青色のいずれからも銅,黒色からは炭素を成分とする墨,金色や銀色からは金や銀が確認されている。また,漆喰を用いた装飾は,漆喰のレリーフに顔料で着色した鏝絵(写真6)などとしても知られている。
化学だいすきクラブニュースレター第48号(2021年7月1日発行)より編集/転載