私と化学(大阪大学先導的学際研究機構 特任教授・三浦雅博)
皆さんはテレビアニメは好きですか? 私は,鬼滅の刃がとても人気なのは知っていますが,そのほかの最近の番組はあまり知識がありません。インターネットでアニメに登場する科学者を調べようとして,「テレビアニメ・科学者」と入力したところ,第1位はDr.STONEの石神千空という記事が出てきました。読んでみると,豊富な知識をもとにして,科学の力で文明の復活を目指していますね。
私が小学校低学年の頃にはじめての東京オリンピック(1964年)がありました。その頃のテレビアニメでは,鉄腕アトム,鉄人28号,エイトマンなどのロボット番組が人気でした。それらの名前を聞いたことがなかったら,インターネットで調べてください。とても興味深いですよ。この中で,鉄腕アトムは特に印象的でした。アトムは小学生のロボットですが,十万馬力のパワーがあり,空を飛ぶこともできます。人としての心をもち,事件が起これば悪に立ち向かっていくのです。私は,アトムの育ての親のお茶の水博士がとても好きでした。博士は,見た目は必ずしもかっこよくないですが,科学者としてアトムを立派に支えていきました。
鉄腕アトムの作者は,手塚治虫先生です。今やロボット科学は,アトムまではいかなくとも,とても進歩しています。手塚先生は私の母校の大阪大学の大先輩です。医学を学び医師免許を取得されていますが,子供の頃から評判の漫画を描いておられ,漫画家としての道を選ばれました。鉄腕アトム以外にも火の鳥やブラック・ジャックなど,科学的知識を踏まえた多くの優れた作品を残されています。
私は,成長過程で上に書いたような手塚作品などのアニメに影響を受けて大人になりました。中学校,高等学校で理科,物理,化学などを学ぶうち,私は社会で役に立つような研究をする博士になりたいと思い大学に入学しました。大学では応用化学を専攻し,有機合成化学を専門としました。豊かな現代社会を支える学問として重要であるとの思いをもって,これまで40年以上携わってきました。医薬品や電子材料をつくるのに役に立ち,世界中の有機化学者が使って下さるような新しい化学反応を共同研究者といっしょに開発できたのは幸運でした。
今,環境問題,エネルギー問題,食糧問題などの解決を目指す研究が世界的に求められています。皆さんもこれらの問題解決に貢献できる博士を目指しませんか!
化学だいすきクラブニュースレター第50号(2022年4月1日発行)より編集/転載