私と化学(2021・2022年度 日本化学会副会長・塩野毅)
私が生まれたのは東京都の西部に位置する現在もなお緑豊かな田園地帯(現あきる野市草花)です。多摩川と秋川に挟まれた河岸段丘にあり,小学生の頃は家に帰るとランドセルを放り出して外に遊びに出ていました。家庭訪問があるのに道草をしていて,家に着いたら担任の先生が来ていたこともありました。そんな私が化学との接点を持ったのは小学6年生の時,隣町の五日市(現あきる野市五日市)で近隣の小学生を集めて土曜日の午後開催していた科学教室に参加したことです。五日市は五日市憲法(明治の初めに一般住民が作った憲法草案)で有名な所です。今では科学教室の内容については全く記憶がないのですが,友達とバスで行き,田舎道を遊びながら帰ってきたことは良く覚えています。中学,高校時代は部活動(剣道)に熱中し,授業以外で化学に接することはありませんでした。文系科目も理系科目も好きでしたが,大学は“何となく面白そうで社会の役に立ちそうだから”といった単純な動機から工学部の応用化学系の学科に進学しました。
さて,私は現在大学で高分子を作る研究をしています。皆さんは,ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)という言葉を聞いたことがありますか。“ポリ“は”たくさん“の意味で,PE,PPは,エチレン,プロピレンをたくさんつなげ高分子にすることで作られています。もともとエチレンやプロピレンは石油からガソリンを作るときにできてしまうガス成分で,使い道がなく燃やしていました。しかし,1950年代にこれらを簡単につなぐことができる方法(触媒)が見つかりました。PEやPPは,軽くて丈夫,加熱することにより簡単に思い通りの形にできることからさまざまな用途で使われ,現在ではプラスチック生産量の約半分を占めています。2015年には世界中で約4億トンのプラスチック,約16億トンの粗鋼が生産されていますが,鉄の比重(約8)を考えると体積としてのプラスチックの生産量は粗鋼の2倍となります。
プラスチック廃棄物や限りある石油資源を有効利用するために,現在,プラスチックリサイクル技術の必要性が高まっています。一方で,回収できないような用途には生分解性プラスチックが必要でしょう。再生可能な植物資源からプラスチックを作ることができればさらに理想的です。みなさんも高分子の世界に足を踏み入れてみませんか。
化学だいすきクラブニュースレター第51号(2022年7月1日発行)より編集/転載