暮らしの化学 これからの取り組みで未来が変わる プラスチックと環境
小学3年生の花子は,海岸に打ち寄せられた大量のプラスチックごみのニュースにびっくり。
このままごみが海に流出し続けたらどうなってしまうのでしょうか?
この状況を変えたいと,中学1年生の兄のケンと一緒にプラスチックと環境について考え始めました。
海に流れ出したプラスチックのゆくえ
花子たくさんのプラスチックが海に出て行って,それが海岸に打ち寄せられたり,細かくなったものを生き物が飲み込んだりしているらしいのよ。お兄ちゃん。
ケン「海洋プラスチックごみ」と「マイクロプラスチック」の問題だね。海洋プラスチックごみはこのまま何の対策もしないと,2050年には重さにして地球上の魚よりも多くなるという予測もあるくらいなんだ。マイクロプラスチックは5 mm以下の小さなもので,その生物への影響などが調べられ始めている。どちらも,プラスチックの簡単には分解しない性質が関係している問題だね。
花子「簡単には分解しない」…良さそうだけれど。
ケン使っている間は長所になるけれど,ごみになったら逆に短所になってしまうよね。特に,環境に出てしまうと問題になる。
花子ポイ捨てせずに,分別してきちんとごみ箱に捨てればいいでしょ?
ケンそれは僕らが最低限しなければならないことだ。ただ,世界にはごみ処理システムがしっかりできていない国がまだまだあって,水深1万m以上のマリアナ海溝でもポリ袋が見つかったりしている。僕らの生活でも,洗面所やキッチンからの生活排水を通して,無意識に小さなプラスチックを流してしまっていることがあるんだ。
花子それは回収できない!! 問題は難しそうね。
“プラスッチック”はどんな材料?
ケン今日はプラスチックと環境について考えるから,まずはプラスチックがどこに使われているか探してみよう。
花子キッチンやお風呂場に行けばたくさんあるわよ。スポンジや洗剤容器,ペットボトル,洗面器‥‥。ほかにもシャープペン,消しゴム,テニスラケット,電車のつり革,パソコンやテレビ‥‥(写真1)。飛行機の主翼も今ではプラスチックだって聞いたことがある。
ケン本当にたくさん使われているね。同じように見えるプラスチックだけれど,温度を上げると柔らかくなって何回でも形を変えられる種類と,熱をかけて化学反応を起こして作られたために温度を上げても柔らかくならない種類があるんだ。前者がチョコレートタイプ,後者がクッキータイプだ。
花子チョコレートはとかして,またチョコレートとして形を変えられる。クッキーは焼く前なら形を変えられるけれど,焼いた後はもう柔らかくならないから形を変えられない。それと同じってことね。
ケン今度は,もっと小さな目でプラスチックを見てみよう。炭素や水素などの原子がいくつか結合してできたモノマー分子と呼ばれる構成単位がたくさんつながって,ポリマー分子になる(図1)。このポリマー分子で構成される材料のうち,人間が作ったものがプラスチックだ。
花子わぁ。原子でできた鎖ね。
ケンところでプラスチックは材料の一つだけれど,花子はほかにどんな材料を知っているかな?
花子ナイフやフォークは金属,テーブルは木材,窓はガラス,ノートは紙,食器は陶器よね。
ケンいいねえ。材料にはそれぞれ特徴があって,その特徴を活かして使われている。プラスチックにはどんな特徴があるかなぁ?
花子プラスチック製のバケツは金属製より軽いわ。触り心地が柔らかいところやいろいろな色があるところも,私は好きだな。買い物袋は紙製より破れにくいでしょ。
ケンプラスチックには,軽くて,丈夫で,様々な形や性質のものが作れるという特徴がある。さらに安くて,大量生産できるから生活のいろいろな場所で活躍している。
花子プラスチックを使わない生活なんて,できないわ。
ケンだからプラスチックが環境問題を起こさないように,世界中の研究者が頑張っているよ。
環境に優しいバイオプラスチック
ケンまずは,無駄使いしないこと。使う場合には,繰り返し使ったり,材料にまで戻して新しい製品にしたり,燃やすなら出た熱で発電したり,たくさんの工夫がされている。使用後にどうなるかはプラスチックの種類によって違ってくるけれど,特に種類の異なるプラスチックが混ざると材料として使いにくいから,ごみの分別が大事なんだ。
花子なるほど。でも,もっと積極的に何かできないかしら? プラスチックはいろいろな性質のものが作れるのだから,環境中に出たら分解するものも作れるんじゃない?
ケン名案だ。そういった「生分解性プラスチック」も開発されている(写真2)。自然界に存在する微生物の働きで,最終的に水と二酸化炭素(CO2)に分解されるんだ。海洋でも分解が進むプラスチックを開発できれば,海洋プラスチックごみの問題解決につながるね。
花子プラスチックと環境とのかかわりって他にもあるかしら?
ケンじゃあ,地球温暖化の原因物質の一つとされているCO2とのかかわりを考えてみよう。今のプラスチックはほとんど石油から作られているけれど,例えばトウモロコシの芯のような生物由来の資源(バイオマス)を原料に「バイオマスプラスチック」を作る取り組みが進んでいる。使用後にごみとして燃やしても,その時に出るCO2は,また植物を育てることで吸収される。だから,CO2は実質的に出ないと考えられる(図2)。環境にやさしいってことだね。このバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックを合わせて「バイオプラスチック」と呼んでいて,環境に配慮したこれからのプラスチックとして注目されている。
花子“循環”させることが大事なのね。
ケンそうなんだ。ただ,バイオプラスチックが本当にいいかは,全体を見て判断しなくちゃいけない。例えば,作るのに大きなエネルギーを使うようだと意味がないからね。
プラスチックで軽い車を作る
ケンプラスチックを使うことによって,僕たちが生活する中で出してしまうCO2の量を減らして,地球温暖化防止に貢献することもできるんだ。
花子どういうこと?
ケン体積の85%,重量では40%がプラスチックやゴムなどからできている車があるんだ(写真3)。日本のプロジェクトで車用のポリマーがいろいろ開発されて,通常の車の半分の重さになっている。
花子格好いい‼ 軽いといいの?
ケン走るのに必要なエネルギー量が減って,CO2の排出量が少なくて済むんだ。
花子プラスチックとの付き合い方を考え直さなくちゃいけないわね。まずは無駄使いしない。ごみは分別する。ここから始めましょう。
ケンそうだね。そして,僕たちの便利で豊かな生活と地球環境との調和を可能にしてくれるようなプラスチックができるといいね。そうすれば,人と環境とプラスチックが共生できる世界になるはずだ! 他にも,地球環境のことを考えたプラスチックに関する取り組みがいくつもあるから,一緒に調べてみよう。
- 【参考】
- 『図解入門 よくわかる最新プラスチックの仕組みとはたらき[第3版]』(秀和システム,2019/9/28)
- 『海と地域を蘇らせる プラスチック「革命」』 (日経BP,2020/5/28)
- バイオプラスチック導入ロードマップ(令和3年1月 環境省,経済産業省,農林水産省,文部科学省):https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/plastic_junkan_wg/pdf/008_s05_00.pdf
- 日本バイオプラスチック協会HP:http://www.jbpaweb.net/
※URLのリンク先はいずれも2023年4月現在
化学だいすきクラブニュースレター第52号(2022年12月1日発行)より編集/転載