化学だいすきクラブ

元素ファミリー スチックラックの化学

元素ファミリー スチックラックの化学

スチックラックはラックカイガラムシから作られ,プラスチック成分と色素成分が含まれている。今回はスチックラックを「化学のメガネ」で見ていこう!

この記事を書いた人: 今井泉
東邦大学

スチックラック

写真1 スチックラック(タイ、コンケン県)写真1 スチックラック(タイ、コンケン県)

ラックカイガラムシは,樹木の枝に多く集まり分泌物に覆われると棒状のかたまりとなる。これをスチックラックという(写真1)。光明こうみょう皇后こうごうしょう天皇の皇后)が奈良の東大寺の大仏に献納けんのうした薬物のリスト(756年)にはこう(スチックラック)が含まれている。タイ(当時はシャム)から日本に運ばれたとても貴重な薬物であった。現在も正倉院には宝物ほうもつとして保管されている。

正倉院ホームページ
https://shosoin.kunaicho.go.jp/

ラック色素

写真2 左:酸性,右:アルカリ性写真2 左:酸性,右:アルカリ性

ラックカイガラムシに含まれるラック色素(主成分;ラッカイン酸)は,染料として使われた。ラッカイン酸は炭素,水素,酸素の他,窒素を含むカルボン酸である。酸性では赤橙色,アルカリ性では赤紫色を示す(写真2)。日本では,古来「えん」と呼ばれていた色が,このラック色素ではないかと言われている。正倉院宝物の中にも,このラック色素と考えられる臙脂色で着色されたものがあると言われている。

シェラック

写真3 幼虫の1000倍模型(大阪市立科学館)写真3 幼虫の1000倍模型(大阪市立科学館)写真4 食品(光沢剤)写真4 食品(光沢剤)写真5 医薬品(コーティング剤)写真5 医薬品(コーティング剤)

ラックカイガラムシ(写真3)は,北緯16度前後の亜熱帯,一部熱帯地域に生息する小さな昆虫(体長3~8 mm程度)である。樹木に寄生きせいして樹液を吸い,体の表面にある分泌ぶんぴつせんから分泌ぶんぴつぶつ排出はいしゅつし,徐々に自身の分泌物におおわれていく。この分泌物は,炭素,水素,酸素などを含む樹脂じゅしである。この物質を精製せいせいして得られたものが天然プラスチックのシェラックである。シェラックは,インド,タイ,インドネシア,ミャンマー,中国などから輸入され,食品の光沢こうたく剤(写真4),医薬品のコーティング剤(写真5)などとして使われ,多くの場面で人々の生活に役立っている。

岳川有紀子,天然樹脂状物質シェラックの利用−正倉院宝物と薬効を中心に−,大阪市立科学館研究報告 20, 65 – 70 (2010).
https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/research/2010/pb20_065-070.pdf

化学だいすきクラブニュースレター第54号(2023年7月1日発行)より編集/転載

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