暮らしの化学 外出するなら,紫外線対策を!! 太陽光から肌を守る“日焼け止め”の科学
小学3年生の花子は,プリズムを使っていて太陽光の不思議に気付きました。
そこへやってきた中学1年生の兄のケンから,「太陽光には目に見えない紫外線も含まれている」と聞き,さらに驚かされます。紫外線は日焼けの原因です。
二人は,紫外線がどのような光で,どう対策したらいいかを話し合いました。
虹色の外側にある「紫外線」
花子お兄ちゃん,見て見て!お小遣いを貯めて,ガラスのプリズムを買ったの。虹ができるのよ(図 1)。
ケン綺麗だね!昔から知られている現象だけれど,プリズムを通った光が虹色になるのを見て,「太陽の白い光には,さまざまな色の光が混ざっている」と発見したのは,ニュートンなんだよ。
花子リンゴが木から落ちるのを見て,万有引力を発見したと言われている,あのニュートン?
ケンそう。暗い部屋で,こうしてできた虹色の一部を,もう一度,別のプリズムに通す実験をした。これ以上の色が現れないことなどから,この現象の意味を理解したんだ。
花子凄い人なのねぇ。
ケン僕の憧れの人物の一人なんだ。ところで,花子。どうして太陽は光を発していると思う?
花子えっ!月が光って見えるのは太陽の光を反射しているからだけれど,太陽は自らが光っているのよね。それは,どうしてかしら?
ケン太陽は主に水素原子(H)からできている大きな天体だ。中心付近は1600万 ℃,2000億気圧(地球は私たちの住む表面が平均で15 ℃,1気圧。内部であっても5500 ℃,360万気圧)。この超高温高圧の中で,地球上では普通には起こらない核融合反応が起こって,水素からヘリウム(He)ができている。この時に,ものすごく大きなエネルギーが発生して,それが光となって地球に降り注ぐんだ。
花子つまり,太陽光は太陽から届くエネルギーなのね。
ケンしかも届くのは,虹色に見える光だけじゃないよ。赤の外側には赤外線,紫の外側には紫外線という光がそれぞれある。虹色の外側の光は人間の目には見えないのだけれど,それは目の性能の問題で,中には見える動物もいるんだ。
花子見えない光があるなんて,びっくり。でも見えないなら,私たちには特に関係ないのかしら?
ケンいやいや,それは大きな間違いだ。太陽光を温かいと感じるのは「赤外線」があるからだし,外出の際に日焼けに気を付けなくてはいけないのは「紫外線」があるからなんだ。
花子日焼けの原因は,太陽光に含まれている「紫外線」なのね!
地球を守るオゾン層,自分を守る紫外線対策
ケン紫外線についてもう少し考えてみよう。実は,太陽から発生した紫外線の全てが地上に届くわけではないんだ。「オゾン層」って聞いたことあるかな。空気中にある酸素(O2)に紫外線が当たると反応が起こってオゾン(O3)ができる。これが地上10〜50 kmの高さに溜まってオゾン層になって,紫外線の一部を吸収している(図 2)。もしそうでなかったら,生物は地球上で生きられないだろうね。
花子オゾン層って,地球の生物を守るバリアなのね。
ケンでも吸収されずに地上に届いた紫外線によって,皮膚細胞の中にある DNA(遺伝子の正体)が壊されてしまう。その結果,肌が赤くなったり(サンバーン),その後に黒くなったりするんだ(サンタン)。これが日焼けだね。ひどい日焼けをしたり,繰り返し焼いたりすると,DNAの修復が上手くいかなくて皮膚がんになってしまうこともある。
花子それなら,いつ紫外線が強いか知りたいわ。
ケン気象庁が,日本全国の翌日の「紫外線の強さ」を予測しているよ(http://www.jma.go.jp/jp/uv/)。 時刻や季節,天候,オゾンの量によって変わるけれど,1日のうちでは太陽高度が高い正午頃,日本では6月から 8月の夏の季節がもっとも紫外線が強いんだ。ほかには,冬でも雪が積もって晴れた日には,雪の反射で浴びる紫外線量が増えるから注意しなくちゃならない。
花子紫外線が強い時に,私たちはどうしたらいいの?
ケン帽子を被ったり,長袖・長ズボンを着たり,紫外線を通さないメガネをかけたり,紫外線対策をしよう。サングラスは,色が黒くても紫外線を通してしまうものがあるから,注意が必要だよ。
花子日焼け対策では,直接,太陽光が当たらないようにすればいいのよね。でも,顔や腕,足など隠せない場合もあるわ。
ケンそういう時には,「日焼け止め」を塗るんだ。
花子その手があった。塗っても見た目には変わらないけれど,どうして日焼けを防げるのかしら?
ケン日焼け止めに求められる働きは,紫外線が DNA に届かないようにすることだ。紫外線を別のモノに変えてしまうか,散乱・反射する方法があるんだよ。
花子なるほど!日焼け止めには二つのメカニズムのものがあるのね。
ケン日焼け止めの成分とメカニズムを見てみよう(図 3)。「紫外線吸収剤」は,名前の通り紫外線を吸収して,そのエネルギーを熱などに変えることで日焼けを防ぐんだけれど,有機化合物(炭素を含む化合物。ただし,二酸化炭素や一酸化炭素など炭素を含んでいても無機化合物に分類されるものもある)でできている。一方,紫外線を散乱・反射させる 「紫外線散乱剤」は,無機化合物(有機化合物でない化合物)なんだよ。日焼け止めによっては,両方が混ぜられているものもある。
花子化合物にはそれぞれ特徴があるのね。面白い。ところで紫外線は悪いことばかりではないでしょ?
ケン実は,DNAを壊す働きを利用して紫外線ランプなどが滅菌に使われている。僕らの体は,ビタミンD3をつくるのに紫外線に当たらないとならない。でも夏の日差しは強すぎて,必要以上の紫外線を浴びてしまうんだ。
花子わかった。夏休み中に出かける時は,しっかり日焼け対策をするわね。
- 【参考】
- 『紫外線環境保健マニュアル 2020』(環境省)
- 『知って防ごう有害紫外線』(株式会社少年写真新聞社)
- 『太陽紫外線と上手につきあう方法』(丸善出版)
- 「化粧品の化学: 日焼け止めクリームの化学」(九州大学附属図書館):https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=775109&p=5559843
- 「太陽では何が燃えているのですか?」(国立科学博物館):https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/sun/sun01.html
※URLのリンク先はいずれも2023年12月現在
化学だいすきクラブニュースレター第54号(2023年7月1日発行)より編集/転載