化学だいすきクラブ

活躍する化学 海水から飲み水を作る

活躍する化学 海水から飲み水を作る
この記事を書いた人: 鵜沢哲丸
学習院高等科

きれいな水が足りない

きれいな川の水はろ過や薬品消毒をすれば飲み水になります。しかし,世界の気候が変動したため,すでに淡水たんすいを手に入れることが難しくなっている地域がたくさんあります。

海水はたくさんあるのに

では大量にある海水を浄水場で飲み水に変えてはどうでしょうか。それには溶けているしおが問題になります。砂やごみは細かいあみを通せば取り除くことができます。しかし,塩の成分は,ごみや砂どころか,細菌さいきんやウイルスよりももっと小さいので取り除くのが難しいです。海水の中の塩の成分は水の分子よりも少し大きいだけなのです。また薬品を加えると細菌やウイルスは消毒することができますが,塩は何も変化しません。しょっぱいままです。他にも,比較的きれいな水を飲み水にする方法として微生物の力を利用する方法がありますが,やはり塩は取り除けません。

ナメクジが世界を救う?

しかし,逆に言えば水よりも少しだけ大きい,ちょうど良い穴の大きさの網があれば細菌やウイルスも一度に取り除けます。そんなに都合のいいものがどこに,と思うかもしれませんが,そのような作用は生物の体に見られます。例えばナメクジに塩をかけるとナメクジはしぼんでしまいます。ナメクジの表面が塩は通さず,水は通すというまくになっているのです。そのため体の中の水分だけが,塩のある外側に出てきてしまうのです。このような力を浸透しんとうあつと言います。逆に,このような小さな穴のある膜に強い圧力をかけると塩水から水だけをしぼり出すことができます。これを逆浸透(Reverse Osmosis)といいます。

膜の開発

ナメクジの皮膚では破けてしまうので,70年ほど前,アメリカでちょうどよい大きさの穴をもつ強い膜が作られました。これをRO膜といい,RO膜を使って作った水はROすいと呼ばれます。その後,日本でもRO膜の開発が進み,質が高いことで有名です。現在,砂漠さばくが多い国や,川が少ない小さな島でRO水が飲まれています。日本でも,病院の待合室などにおいてあるウォーターサーバーではRO水を使っているものが多くなっています。このようにRO膜の技術によって,淡水が乏しい地域の水問題が解決されています。また,そればかりでなく水資源が豊富な私たちの国でも,水道水やミネラルウォーターより不純物の少ない水としてRO水が供給されているのです。

参考
東レ(RO水の利用など):https://www.water.toray/ja/mediacenter/
三井化学(浸透圧・逆浸透):https://jp.mitsuichemicals.com/jp/molp/article/detail_20200714/index.htm

※URLのリンク先はいずれも2024年5月現在

イラスト1
イラスト1: ナメクジの表面が塩は通さず,水は通すという膜になっている
イラスト2
イラスト2: ウォーターサーバー
イラスト3
イラスト3: RO膜のはたらき

化学だいすきクラブニュースレター第55号(2023年12月1日発行)より編集/転載

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