化学だいすきクラブ

私と化学(2023年度 日本化学会筆頭副会長・高田十志和)

この記事を書いた人: 高田十志和 たかだとしかず
広島大学大学院先進理工系科学研究科 2023年度日本化学会 筆頭副会長 [専門]超分子科学,有機化学,高分子化学
高田十志和氏

「プラント」という言葉,知っていますか?

プラントには植物という意味もありますが,ここでは化学工場や石油工場のあの大きなタンクや配管が複雑に絡み合うプラント,化学プラントの話をします。薬品やガソリンなどを製造する大規模な装置で,最近では”夜の光り輝く化学プラントが美しい”と,船から見学するツアーが人気ですね。プラントの心臓部に当たる製造装置内では化学反応を使って私たちの暮らしに欠かせない様々な製品を作っています。

さて,私は大学の化学の研究者ですが,私には“マイプラント”と呼ぶ化学プラントがあります。皆さんの中にも「将来環境問題の解決に貢献できるようなことをしたい」と思っている人は多いと思います。私の若い頃も同じで,自動車の排ガス中の二酸化炭素の削減が大きな問題となっていた時でしたので,低燃費(エコ)タイヤの普及に貢献したいと思うようになりました。その思いが通じたプラントの話です。

今から25年程前,それまで日本ではほとんど普及していなかったエコタイヤ普及の鍵となる必須の添加剤(タイヤのゴム部分に添加する化学薬品)の新しい作り方の開発に挑戦しました。そして,自らの実験によってその化学反応を見つけ,実験室の試験管から徐々に規模を大きくして,実用的な製造方法まで進めた結果,新プラントが建造され,”マイプラント”となりました。このプラントは国内唯一の製造所として現在もまだ元気に稼働しており,そこで生まれる製品は皆さんが乗る自動車のタイヤに使用され,燃費の節約や二酸化炭素の削減によく貢献しています。おかげで,今やほとんどの車がエコタイヤを装着するまで普及し,環境改善が進んでいます。

私が化学の道に進もうと決めたのは,化学には何かとても明るく豊かな未来がありそうだし,きっと何か世の中の役に立つことができる世界だと思ったからです。今日の超高速のコンピューターを使っても見つけられない新しい薬品や素材がまだまだ無限にありますから,化学は皆さんの夢を叶えてくれるとてもワクワクする世界だと言えます。2000年以降ノーベル化学賞受賞者が何人も出ているように,日本には化学を学び研究する優れた環境が整っています。

皆さん,夢や目標に向かって化学の世界でおおいに挑戦してみませんか。

写真
写真: エコタイヤ用添加剤製造プラント全景(2001年)。このプラントでは、2000年に開発された新製造法により,数%の燃費向上(開発当時)とそれによる二酸化炭素排出量低減効果のあるタイヤ用添加剤(シランカップリング剤)が現在も製造され、環境改善に貢献している。

化学だいすきクラブニュースレター第56号(2024年4月1日発行)より編集/転載

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