化学だいすきクラブ

私と化学(花王・武馬吉則)

この記事を書いた人: 武馬吉則
2017年度 日本化学会副会長/花王株式会社 エグゼクティブ・フェロー/専門:香粧品科学,生物化学
花王・武馬吉則氏

化学に興味を持ったのは周期表という元素が並んだ不思議な表と出会ってからです。学校の行き帰り,歩きながら暗記したのを覚えています。スイヘイリーベーボクノフネというようにして記憶したものです。ちょっと前にエレメントハンターというアニメの歌で聞いた覚えがあるので,YouTubeで探して見てくださいね。確か,魔法の呪文でノーベル賞とか歌っていたような気がします。カルシウムが+2価とか,ただ暗記していたのが何か突然理解できた気がしたのが印象的でした。それがきっかけで化学を好きになり勉強するようになりました。

化学で感動したのは,DNAの二重らせん構造を知った時です。皆さんも野菜からDNAを抽出したことありますか? あの白い糸のようなものです。最近ではペーパークラフトで作ることもできます。それまで生物学は大嫌いだったのですが,ここで化学に助けられました。DNAを構成する成分であるアデニン(A)とチミン(T)が,またシトシン(C)とグアニン(G)が常に1対1で弱い水素結合でくっついていて,DNAが同じものを複製できることを知ったのです。何と美しいんだろうと感動したのを今でも鮮明に覚えています。化学の目で理解すると生物が美しく見えたのです! それ以来,化学の目で色々な物を理解するように心がけています。海辺に出かけてみると海は塩素,ナトリウム,マグネシウムが入った水素と酸素から出来た水,砂浜は岩石の粉で酸素,ケイ素,アルミニウムの山に見えてきます。そこにいる僕は,水,核酸,タンパク質,脂質,糖質で出来ていて,それらは酸素,水素,炭素,窒素,リン,硫黄の元素からです。まるで周期表の眼鏡でみている様で楽しいです。

今は花王という会社で働いています。油脂に苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を加えると石鹸せっけんができますね。界面活性剤と言われるものです。水と油は混ざりませんが,それらを仲良く混ぜる能力があります。洗濯や食器洗いにも使います。化粧品のクリームを作れます。社会に出ると化学を勉強していたことが非常に役に立ちます。私にとっての化学は,嫌いだった生物学を好きにしてくれたり,様々な物を理解する手助けだったりします。皆さんも,化学の目で広い世界を理解するように心がけて下さい。きっと新しい感動があるはずです。そして何時いつまでも,化学が大好きでいて下さいね。

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fig1: DNAの二重らせん構造

化学だいすきクラブニュースレター第36号(2017年7月1日発行)より編集/転載

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