
活躍する化学 「におい」がもたらす未来
「におい」はどのように感じられている?
私たちは普段,光や音,力,熱などの様々な刺激を受けて生きています。その刺激の1つである「におい」は,におい物質(主に気体)が鼻から入ると,鼻の内部の粘膜で感知され,その情報が神経を通して脳に送られて感知すると言われています。
「におい」にまつわるちょっとした話
①「硫黄くさい」は嘘…?
温泉地や火山地帯で感じられる,「硫黄くさい」と言われるにおいは硫黄から発しているものではありません。正確には,硫黄の化合物である硫化水素や二酸化硫黄による独特な刺激臭です。実際,硫黄の単体(純粋な硫黄)は無臭ですので,においを感じた際には「硫黄化合物くさい」と言うのがよいでしょう。
②「ガスくさい」も嘘…?
実験や料理をするときに燃やす都市ガス(メタンなど)も実は本来は無臭です。しかし,ガス漏れした時などの安全面を考慮し,においをつけています。
③「金属くさい」も嘘…?
鉄棒や硬貨を触れた手からにおう「金属くさい」と言われるにおいも正確には少し違います。例えば,鉄の沸点は約3000 ℃ありますので,鉄のにおいがあるとすれば,手が3000 ℃程あり,鉄が気体にならないといけません。実際は,手から出る汗や脂質が鉄のイオンと反応して「金属くさい」におい物質に変わり,私たちが感知しているのです。つまり,金属がくさいのではなく,私たちの手がにおいの原因なのです。
私たちの「におい」はどのように生まれている?

では,私たちの体から発せられる「におい」はどのようにして生まれているのでしょうか。体のにおい(体臭)の元となるのは,主に体から分泌される汗と皮脂,そして皮膚上の常在細菌です。皮膚に存在する汗腺からは2種類の汗(エクリン汗・アポクリン汗)と,皮脂腺からは2種類の皮脂(皮脂腺から出る皮脂・角質層の中にある脂質)が分泌されます。これらが時間経過と共に皮膚上で混ざり合い,さらにその汗や皮脂を細菌が代謝したり,大気中の酸素や過酸化脂質(酸化された脂質)によって酸化されたりして,におい物質が発生するのです。様々な会社では,汗やにおい,細菌に関して日々研究し,その成果により製品開発され,私たちのにおいケアやエチケットに貢献しています。
「におい」の応用研究例
「手のにおい」で男女を見分ける捜査技術誕生
アメリカのフロリダ国際大学は,2023年7月に,手のにおいだけで男女を96%の精度で見分けられることを論文で発表し,今後,DNA鑑定や指紋などと共に証拠として活用されることが期待されます。
- 参考文献
- 汗と体臭を科学する – 汗とにおい総研:https://www.mandom.co.jp/sweat-smell/
- Frazier, C.J.G.; Gokool, V.A.; Holness, H.K.; Mills, D.K.; Furton, K.G. Multivariate Regression Modelling for Gender Prediction Using Volatile Organic Compounds from Hand Odor Profiles via HS-SPME-GC-MS. PLoS ONE 2023, 18, e0286452.
※URLのリンク先は2025年6月現在
化学だいすきクラブニュースレター第57号(2024年7月1日発行)より編集/転載