化学だいすきクラブ

暮らしの化学 キッチンにあるモノでどこまできれいになる? 化学の力を使って年に一度の大掃除

暮らしの化学 キッチンにあるモノでどこまできれいになる? 化学の力を使って年に一度の大掃除

2024年もそろそろ終わりです。中学1年生のケンと小学3年生の花子の兄妹は,新年を迎えるために大掃除に取り掛かりました。

気が乗らない花子に,ケンは「台所のものを使って掃除をしよう!」と提案します。

「化学の力を上手く使えば,洗浄剤を使わなくても掃除ができる」とケンは言うのですが,どういうことなのでしょうか。

この記事を書いた人: 池田亜希子(サイテック・コミュニケーションズ)

「どんな汚れが何に付いているか」を見極める

花子今年もまた大掃除をするのかぁ。1年の汚れを落とすのはたいへんなのよね…

ケンやる気がなさそうだね。でも,大掃除には化学がたくさん関わっているんだってわかったら変わるかな。

花子どういうこと? 大掃除ではいつもより念入りに掃除機をかけるし,棚も水拭きするけれど…

ケン掃除機でゴミを“吸い取ったり”,水拭きで汚れを“拭き取ったり”するのにあまり化学は関わっていないんだな。化学はもっと汚れに働きかけるんだよ。

花子働きかける?

ケン汚れが落ちやすいように分解したり,細かくしてはぎ取りやすくしたりするんだ。そのためにいろいろな洗浄剤が売られているけれど,今日は化学を考えながら台所にあるモノを使って掃除しようと思うんだ。

花子それは面白そうだわ。

ケン重要なのは,“どんな汚れ”が“何に付いているか”を見極めることだ。汚れに働きかけるモノには,それぞれ得意な汚れがあるからなんだ。それに,汚れに働きかけるモノであっても,それが,汚れが付いている床やガス台,お風呂場の材料を傷つけたり溶かしたりしたら使えない。

花子お掃除をする前には,汚れを観察するのね。

油汚れでベタベタなキッチンでは重曹が活躍

花子家の中で一番汚れていると感じるのは,キッチンなのよね。

ケンそれじゃ,キッチンの換気扇から始めよう。最初に汚れの観察だよ。

花子ベタベタしている。お父さんがよく唐揚げを作ってくれるけれど,油がはねているわね。その油が換気扇にも付いているんじゃないかしら?

ケンその通りだ。細かい粒になった油が換気扇に吸い込まれて,付着してしまうんだ。

花子換気扇は金属でできているようだけれど,どうしたらいいの?

ケンアルカリ性の洗浄剤で落とすことができるよ。アルカリ性によって,油汚れは分解されたり,一部は石けんに変化したりして洗浄効果を発揮する。キッチンにあるモノでアルカリ性のものといえば「重曹(炭酸水素ナトリウム)」だ!ベーキングパウダーの主成分だね(写真1)。

花子知っているわ。この前,お母さんとカップケーキを作る時に使ったもの。熱を加えると二酸化炭素という気体が発生するからケーキが膨らむのよね。

ケン重曹のアルカリ性は弱いから,強いアルカリ性の洗浄剤に比べると洗浄力は低くなるけど,一度やってみようか。まず,重曹を水に溶かして,それをしみ込ませたキッチンペーパーを油汚れに貼り付ける。そして,5分経ったら拭き取るんだ(写真1)。

花子わぁ,ベタベタが簡単に取れた。ところでお兄ちゃん,アルカリ性って何なの?

ケン小学6年生で習うんだった。塩水,砂糖水,炭酸水,酢,石けん水など,水にはいろいろなモノが溶け込むよね。水にモノが溶け込んだものを「水溶液」と呼ぶんだけれど,水溶液は,酸性,中性,アルカリ性のいずれかの性質をもつんだ。そしてこの性質はリトマス紙という紙で調べることができる。青いリトマス紙が赤くなれば,その水溶液は酸性。赤いリトマス紙が青くなれば,アルカリ性。青いリトマス紙も赤いリトマス紙も色が変わらなければ中性なんだ。高校生になったら,この3つの性質がどういうことなのかを勉強するけれど,今は「リトマス紙の変化でわかる水溶液の性質」と覚えておけばいい。酸性の水溶液は酢やレモンなどで,酸っぱいという共通点がある。一方で,石けん水のようなアルカリ性の水溶液は苦いんだ。ただ,水溶液によっては口に入れてはいけないものもあるから,気を付けてね。

花子わかった。重曹を水に溶かした水溶液はアルカリ性だから,赤いリトマス紙を青くするわけね。

ケンそういうことなんだ。

レモンでお風呂場の鏡のウロコを取る

花子お風呂場の鏡に付いている白いウロコのようなものを落としたいのよね(写真2)。

ケンあかと呼ばれるけれど,何の汚れかわかるかな?

花子お風呂から出る時には,シャワーで壁から鏡,床まできれいに流しているのに,こうなってしまう。

ケン水道水に入っているカルシウムやマグネシウムが,炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムになってこびりついているんだ。シャワーをかけた後に,から拭きすれば防げるよ。

花子これからは,から拭きするわ。でも,付いてしまった汚れはどう落とすの?

ケン酸で溶かすのが効果的だよ。台所にあるものだと,酢やレモンを使えばいい。酢には酢酸,レモンにはクエン酸が含まれているんだ。ただし,水垢を落とせない酸もあるから,注意が必要だよ。

花子だいぶ取れたけれど,何度か掃除しなくちゃね。

洗浄剤を使う場合は「混ぜるな危険」に注意

花子アルカリと酸でいろいろな汚れが落とせそうね。

ケンその通りだ。でも,両方の効果が欲しいからと言って,アルカリと酸を混ぜてはいけないよ。2つを混ぜると中和という反応が起こって,それぞれの効果を失ってしまうんだ。化学は「働きかける」ことだと話したけれど,それはつまり「変化を起こす」ってことなんだ。その結果,有毒なガスが発生することもある。だから,売られている洗浄剤には「混ぜるな危険」と書かれているものがあるんだ。

花子お掃除をするには,そういう知識も重要だわね。

ケンそれじゃ,次はどこを掃除しようか?

写真1
写真1: 重曹(左上)と重曹水をしみ込ませたキッチンペーパーを貼り付けて上からラップした換気扇(左下)。5分後に拭き取ったもの(右)。換気扇の油汚れを,重曹水を利用して拭き取った。今回は,100 mLの水に小さじ1杯の重曹を溶かした重曹水を使った。
写真2
写真2: ①鏡に付いた白いウロコ状の汚れ(水垢)。②水垢を取るために,レモン汁をしみ込ませたキッチンペーパーを貼り付けて上からラップをかけ,一晩おいた。③スポンジでこすって水で流した。
【参考】
『汚れの科学』(サイエンス・アイ新書)
洗浄の「酸・アルカリ中和説」の注意点 (ver.20160714A):http://www.detergent.jp/kaisetsu3/acidbase.html
酸とアルカリ | 理科6年 ふしぎ情報局 | NHK for School:https://www2.nhk.or.jp/school/watch/outline/?das_id=D0005110271_00000
【理科の自主学習ノート:6年】水よう液の酸性(さんせい)・中性・アルカリ性|小学生まなび研究会:https://positive-learning.info/jishuben/jishuben107.html

※URLのリンク先はいずれも2025年8月現在

化学だいすきクラブニュースレター第58号(2024年12月1日発行)より編集/転載

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