化学だいすきクラブ

元素ファミリー 元素をつかまえる植物

元素ファミリー 元素をつかまえる植物:周期表

植物には,さまざまな元素を取り込む性質があります。その性質は,目立たないところで,私たちの生活に役立てられています。

この記事を書いた人: 渡部智博
立教新座中学校・高等学校

ヒョウタンゴケ

写真1 ヒョウタンゴケ(株式会社ジャパンモスファクトリー)写真1 ヒョウタンゴケ(株式会社ジャパンモスファクトリー)写真2 金属フィルター(株式会社ジャパンモスファクトリー)写真2 金属フィルター(株式会社ジャパンモスファクトリー)写真3 金を吸着したヒョウタンゴケ(DOWAエコシステム株式会社,川上 智 撮影)写真3 金を吸着したヒョウタンゴケ(DOWAエコシステム株式会社,川上 智 撮影)

世界に広く分布するヒョウタンゴケには,その胞子ほうしから発芽はつがしてできた糸状の原糸体(写真1)の細胞さいぼうへきに金属を吸着きゅうちゃくする性質があります。これをフィルター(写真2)として利用すると,鉱山の廃液はいえきに含まれる鉛Pbなどを取り除くことができます。また,家電製品などには貴金属やレアメタル(希少金属)が含まれていますが,これらを廃棄したゴミ(都市鉱山)を溶かした廃液から金Au(写真3)を回収できます。

アイスプラント

写真4 アイスプラント(株式会社農研堂)写真4 アイスプラント(株式会社農研堂)写真5 塩分を含む塩嚢細胞(ブラッダー細胞)(佐賀大学HPより)写真5 塩分を含む塩嚢細胞(ブラッダー細胞)(佐賀大学HPより)

乾燥かんそうは世界の陸地の4割であり,全世界の3分の1の人が住んでいます。このため,乾燥地でも作物を栽培さいばいすることは重要です。乾燥地は光が豊富ですが,雨が少ないことで塩分(塩化ナトリウムNaClなど)がたまりやすいのです。トマト,アスパラガス,ネギのように塩分に比較的強い作物がある一方で,キュウリやイチゴのように弱い作物もあります。有明ありあけかい干拓かんたく(佐賀県)の塩害対策として研究された南アフリカ原産のアイスプラントは,塩化ナトリウムだけでなく,銅Cu,カドミウムCd,亜鉛Zn,ヒ素Asなども吸収して育つ作物です。養液ようえき栽培されたアイスプラント(写真4)は,葉の表面にある塩嚢えんのう細胞(ブラッダー細胞)(写真5)に塩分をたくわえており,ほんのり塩味がします。

イネ

写真6 カドミウムの吸収量が少ないコシヒカリ<ruby>環<rt>かん</rt></ruby>1号とコシヒカリの<ruby>外観<rt>がいかん</rt></ruby>に違いはない。(農研機構)写真6 カドミウムの吸収量が少ないコシヒカリかん1号とコシヒカリの外観がいかんに違いはない。(農研機構)

日本では,お米を主食としている人が多いです。イネはいろいろな成分を吸収して成長しますが,イネに必須ひっすな元素である鉄Fe,銅Cu,亜鉛Zn,マンガンMnだけでなく,カドミウムCdも取り込まれます。カドミウムは広く分布する有毒ゆうどくな元素であり,日本人が食品から摂取せっしゅする量の4割をイネが占めると推定すいていされています。日本人が摂取しているカドミウムの量は体重1 kgあたり1週間に0.0028 mgであり,世界保健機関WHOが公表している各地域の平均的な摂取量(0.0028~0.0042 mg)や,厚生こうせい労働ろうどうしょうの食品安全委員会が食品健康影響えいきょう評価を行い,一生涯いっしょうがい摂取し続けても健康に悪影響がでない摂取量(0.007 mg)のいずれと比べても,日本は低い状況にあります。日本では,さらにカドミウムの吸収量が低い品種(写真6)の開発がなされています。

化学だいすきクラブニュースレター第58号(2024年12月1日発行)より編集/転載

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