
暮らしの化学 硬くてキラキラ輝く宝石の王様 工業でも大活躍のダイヤモンドの化学
小学3年生の花子は,指輪の形のキャンディを買ってもらって大喜び。
そんな花子に,中学1年生の兄のケンが「宝石にも化学があるんだよ」と語り出します。4月の誕生石であるダイヤモンドについて話した2人。
指輪キャンディはひときわ美味しく感じられたことでしょう。
炭素原子からできている無色透明の石
花子見て見て,お兄ちゃん! 指輪の形のキャンディよ。駄菓子屋さんで,お父さんに買ってもらったの。懐かしがっていたなぁ。お兄ちゃんも,おひとつどうぞ。飴のキラキラした感じが,本物の宝石みたいでしょ?
ケン本当だ。それじゃ,今日は宝石の化学の話をしよう。4月の誕生石のダイヤモンドはどうかな。
花子大好きな宝石の1つだわ! お母さんが「無色透明な石ほど値段が高いんだ」って話していた。
ケンそうだね。このダイヤモンドは,鉛筆の芯の黒鉛と同じで,「炭素(C)」という元素だけからできているんだよ。黒鉛はまっ黒な物質なのに,ダイヤモンドは無色透明だってことに驚かされるね。
花子ダイヤモンドと黒鉛では何が違うのかしら?
ケン炭素原子どうしの結びつき方が違うんだ。ダイヤモンドでは,炭素原子が4つのほかの炭素原子と強い結合(共有結合と呼ぶ)で結びついている(図1左)。炭素原子が規則正しく並んで結晶になっていて,この構造では,目に見える光が吸収されなくて通り抜けるから無色透明なんだ。それに対して黒鉛では,炭素原子が3つのほかの炭素原子と共有結合して層を作って,それが重なり合っている(図1右)。層と層はファンデルワールス力という弱い力でつながっている。この構造だと,目に見える光がほとんど吸収されてしまうから黒いんだ。そして紙にこすりつければ簡単に層が剥がれるから,鉛筆では黒い文字を書くことができる。
花子原子の結びつき方が違うと,ぜんぜん違うものになるのね。ダイヤモンドは無色透明な上にキラキラ輝いているわね?
ケンそれは,僕らが“ダイヤモンド”といったときに想像するあの形に秘密がある(図1左写真)。ダイヤモンドは,掘り出されたときにはあんな形をしているわけじゃない。宝石として綺麗に見せるために光をどう反射させたらいいかを考えて,あんな風にたくさん面のある形に削られているんだ。
この世界でいちばん硬い物質
花子どちらも炭素だけからできているなら,黒鉛からダイヤモンドを作ることはできないのかしら?
ケンそれを考えるには,まずダイヤモンドが地球上でどうやってできるかを知る必要があるね。炭素原子がダイヤモンドのように規則正しく並ぶには,それに適した高い温度と高い圧力が必要なんだ。この条件を満たすのが,地下約150 kmの上部マントルという場所とされている(図2)。5万気圧(地球上が約1気圧)で1500℃といった環境らしい。だから僕たちがこうして天然のダイヤモンドを手にできるのは,ある意味で奇跡なんだ。
技術は進んでいて,今では人工的に高い圧力を作ってダイヤモンドを合成している。しかも,小さいものなら圧力が高くなくても作れるんだ。
花子そうなんだ。指輪になったりしているのかしら?
ケン指輪にもなるけれど,宝石としての価値は天然のダイヤモンドには及ばないものが多いんだ。だけれど,宝石にならない天然ダイヤモンドとともに,いろいろな材料を切ったり削ったりする工具などとして工業的に使われている(図3)。トンネルを掘り進めるドリルの刃もダイヤモンドでできていることがある。こんな風に使えるのは,ダイヤモンドが強い共有結合だけからできていて,この世界でいちばん硬い物質だからだ。
花子ダイヤモンドが工具に使われているなんて,驚いた。
欠陥で凄い力を発揮するダイヤモンド
花子そうそう,ダイヤモンドにはいろいろな色があると聞いたことがあるわ(図4)。
ケン色が着くのは,炭素以外の元素が不純物として含まれたり,逆に結晶から炭素原子が抜けて孔が空いたりするからなんだ。例えば,窒素(N)を含むと黄色に,ホウ素(B)だと青になる。とても珍しくて宝石としてものすごく高価なものもあるらしいよ。
花子でも,ダイヤモンドとしては欠陥なのよね?
ケンそうなんだけれど,この欠陥の入ったダイヤモンドが特別な性質を示すから,それを利用しようという研究が進められている。例えば,電気を流れやすくしたダイヤモンドを使って,水や尿,血液の中の物質の量を測ったり,二酸化炭素(CO2)からほかの役に立つ物質を作ろうとしているんだ(図5)。ダイヤモンドが硬くて強いから,いい装置が作れるんじゃないかと期待されているよ。
花子ダイヤモンドは宝石の王様というだけでなくて,産業を変えるかもしれないすごい材料なのね!
- 【参考】
- 人類初のマントル到達なるか┃地球と海のはなし│子どものためのニュース雑誌「ニュースがわかる オンライン」:https://www.newsgawakaru.com/books-selection/8112/
- ダイヤ半導体の回路、佐賀大が世界初開発 実用化へ高速性と耐久性確認|【西日本新聞me】:https://www.nishinippon.co.jp/item/1080565/
- ダイヤモンド半導体の魅力とその応用 パワーデバイスと量子デバイス 山崎 聡 金沢大学 – 応用物理学会:https://www.jsap.or.jp/columns/gx/e2-13
- 『宝石からレアメタルまで 鉱物大事典』(ニュートンプレス,超絵解本,2023年)
- 阿依 アヒマディ『アヒマディ博士の宝石学』(アーク出版,2019年)
- 廣瀬 敬『地球を掘りすすむと何があるか』(河出書房新社,KAWADE夢新書,2022年)
- 松原 聰『ダイヤモンドの科学』(講談社 ブルーバックス,2006年)
※URLのリンク先はいずれも2026年10月現在
化学だいすきクラブニュースレター第62号(2026年4月1日発行)より編集/転載




