化学だいすきクラブ

活躍する化学 博物館で昔のモノを調べる

この記事を書いた人: 島津美子
国立歴史民俗博物館研究部

私たちの身の回りにはさまざまな物質を原料として作られたものがたくさんあります。「化学」は,こうした身の回りのものを新しく作り出すだけでなく,古いモノが何を原料として,どういう技術で作られているかを探ったりもします。

博物館や美術館には,昔の人々が作ったり,使ったりしたモノが,たくさん保管・展示されています。手紙や本,食器や着物,絵画や彫刻など,種類も形もいろいろあり,原料もさまざまです。手紙や本に書かれた内容,食器の形や使われていた時期などはもちろん大切な情報ですが,原料や製法も大事な情報です。

原料や製法を探るためには,まず,モノの状態をよく観察します。顕微鏡で表面を観察すると,普段見ているものとは違う状態が見えます(写真1写真2)。そして,化学的にもどんな元素や構造が含まれているかを分析します。こうしてモノを調べていると,同じ種類の原料であっても,化学的性質の違いや加工の仕方で,まったく違うものに使われていることに気づきます。

たとえば,16世紀のイタリアでレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた絵画「モナ・リザ」には植物油が用いられています。油の中でも,乾くと固まる性質を持つものと,さまざまな色の岩石などを砕いて作った粉末を混ぜ合わせると絵具になります(写真3)。油は,種類によって調理に使われたり,石けんの原料にもなったりします。岩石からは,たとえば,鉄や銅などを取り出して,硬貨や刀を作ることもあります。

このように原料や製法を明らかにすることで,これらのモノが作られた時代の科学技術についての理解を深めようとしています。そして,現在まで伝えられた昔のモノや,今私たちが使っているモノを未来に残していくためにも,化学が役立っています。

写真1
写真1: 絵巻『太平記絵詞たいへいきえことば』(国立歴史民俗博物館蔵)の一場面
写真2
写真2: 写真1で逆立ちした人物の服部分を顕微鏡で拡大観察(金粉や青色の岩石を砕いた粒子が見える)。
写真3
写真3: 油絵具作り(加熱加工した植物油と白色粉末の混合)
国立歴史民俗博物館
所在地 : 千葉県佐倉市城内町117番地
ホームページ : www.rekihaku.ac.jp/kids
島津美子
1999年 金沢大学理学部化学科卒業・2001年 東京芸術大学大学院文化財保存学専攻修了・オランダ文化遺産研究所,東京文化財研究所を経て,2013年7月から国立歴史民俗博物館勤務。

化学だいすきクラブニュースレター第36号(2017年7月1日発行)より編集/転載

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