化学だいすきクラブ

私が化学を選んだ理由(早稲田大学・黒田一幸)

この記事を書いた人: 黒田一幸 Kazuyuki Kuroda
職業:早稲田大学理工学術院教授 経歴:2014年度日本化学会副会長 専門:無機物質化学
早稲田大学・黒田一幸氏

私は小中高の時代を山陰の小都市で過ごしました。小学生の頃,担任の先生が学習研究社の「X年の科学」という月刊誌を紹介して下さり,毎号に豪華な付録(ビーカー,メスシリンダーなどはもちろん,顕微鏡,偏光板,鉱物標本などもありました)があリ非常に嬉しかったことを思い出します。これが現在発行されていないのは本当に残念なことだと思います。

夏休み自由研究で,ある雑誌に出ていたアイディアをもとに,雨粒の大きさを測定しようと思い立ち,習字用の半紙をもって外に飛び出し,雨粒の大きさを測定しようとしました。雨粒が半紙につくやいなや,ぬれた円の直径がじわじわ大きくなっていき,結局まともな測定にはなりませんでした。その結果を提出したのですが,先生は結構ほめてくれました。しかし,研究のアイディアは自分自身が思いついたことではなかったので,それほどうれしくなく,良い思い出になっていません。そのこともあって,オリジナルなアイディアに憧れを持つようになりました。自分の着想に基づく研究を皆さんも目指してほしいと思っています。

高校時代の化学の授業は熱心な先生方に恵まれ,理科室での実験が沢山あり,納得のいく勉強ができました。高分子の授業は身近に感じられ,特に興味深く思い,天然の物質を人間が合成できる知識を大変優れたものと非常に興味を惹かれました。一方で,社会や人間そのものにも関心があリ,文系か理系かのコース選択には随分迷ったことを思い出します。しかし最後に理系の判断をしたのは,化学の授業によるところが大きかったように思います。

大学では応用化学科に入学しましたが,関心事が沢山あってあらゆるジャンルの本の乱読をしていました。その中である本にめぐり合い,社会や人間生活における化学の役割について目を開かれる思いがし,この道を進んでいけば人間・社会に貢献できる,納得のいく人生を送れるのではないかと思えるようになっていきました。卒業研究に入った後も色々なことがあり,現在につながっているのですが,それはまたの機会に……。

人それぞれに違う経験をし,大人になっていきます。だれ一人として他人と同じ人生を歩むことはありません。皆さんも是非諸先輩の話を沢山聞いて,自分の人生を形作っていってほしいと思います。

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写真: 自らの着想に基づく研究で見出したメソポーラスシリカの代表的電子顕微鏡写真

化学だいすきクラブニュースレター第28号(2014年10月20日発行)より編集/転載

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