化学だいすきクラブ

私が化学を選んだ理由(京都大学・中條善樹)

この記事を書いた人: 中條善樹 Yoshiki Chujo
職業:京都大学工学研究科教授 経歴:2014年度日本化学会筆頭副会長 2013-14年度近畿化学協会会長 専門:高分子化学,ハイブリッド材料,元素ブロック高分子
京都大学・中條善樹氏

小学生の頃の私は,どこにでもいるような野球と理科の好きな子供でした。中学生の頃も科学全般に興味はありましたが,テニスの部活中心の生活を送る毎日でした。一方,歴史も大好きで,特に邪馬台国時代の日本古代史に夢中になっていました。

高校に入り、さて,いよいよ自分の進路を決めなければならなくなった時,いろいろ迷った挙句,最後に残ったのが高校時代に科学の中で一番興味を持った「化学」と,昔から大好きだった「歴史」でした。どちらも捨て難く,いわゆる理系クラスか文系クラスかで,ぎりぎりまで決められなかったのを覚えています。最終的に自分で自分を納得させた理由が,「化学を職業として,歴史を趣味にする」ことは可能なような気がしましたが,「歴史の分野で仕事をして,化学で遊ぶ」というのがイメージできなかったという,極めて現実的なものでした。炭素骨格が無限に拡がっていく有機化合物に,それこそ無限の可能性を感じていた私は,有機化学の分野で有名な京大工学部の合成化学科を受験することにしました。

それ以来,化学の面白さに惹かれ続け,大学院博士課程まで進み,結果として研究者になっていました。時々,「生まれ変わったら,今度はどんな職業に就きたいですか」と聞かれることがありますが,私は迷わず「何度生まれ変わっても化学者になりたい」と答えます。化学こそまさに「頑張ったら必ずご褒美があるフェアな学問」であり,「未来を元気にできる学問」であると信じています。

当初の予定では「歴史を趣味」にするつもりでした。しかし,時間ができたら,もっと化学を掘り下げたくなり,気がつけば「化学を職業として,化学を趣味にする」人生を歩んできました。定年で退職したら,趣味としての化学を続けるのか,趣味の歴史を始めるのか,自分自身がどうするのか楽しみです。たぶん私は,第二の人生でも「化学で遊んでいる」ような気がします。「好き」だった化学を一生続けていくことができることを,いま本当に幸せに思っています。私の研究室の学生達との合言葉は「Enjoy Chemistry!」です。

イラスト
イラスト: 院生の耳に念仏

化学だいすきクラブニュースレター第27号(2014年6月20日発行)より編集/転載

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