私が化学を選んだ理由(株式会社クラレ・蜷川洋一)
私は小学生のころは文系科目の方が好きで,理科にはあまり興味はありませんでした。ところが中学の3年間で,一気に理科大好き人間に変貌します。それは中学で理科を担当された若い先生の授業がきっかけです。九州大学の生物系の学科を出られた先生で,化学,物理の造詣も深く,理科の授業はとても楽しく,待ち遠しいものでした。一番の魅力は化学の授業,特に実験です。実験を通じて,何故だろうという問いかけがあり,生徒に考えさせた後にわかりやすく説明してくれました。今でも心に残っているのがアンモニアの噴水実験で,真紅の噴水の美しさに教室中から歓声が上がりました。そして,なぜ噴水ができるのか,美しく,わかりやすい説明でした。一方で,実験の失敗も度々あリました。そして失敗したときは顔色を変えて大きな目をクリクリさせるので,カメレオンというあだ名がついていました。そのあとにはなぜ失敗したのかという問いかけがあり,再実験は成功裏に終わります。初めのうちは実験が下手な先生かと思っていましたが,実は,わざと失敗して,生徒に考えさせていたのです。酵素の授業も強く印象に残っています。授業に入る前に,少し前に勉強した触媒について復習してくるように指示があり,生物における酵素の機能を化学反応における触媒の機能と対比させながら説明してくれました。サイエンス,中でも化学の美しさに浸ることが出来た3年間でした。
こうして、すっかり理系人間になった私は化学以外に数学,物理,天文学にも興味を持ちますが,最終的には化学を専攻します。それは「新しい物質を作り出して,社会に提供する」という化学の機能に大きな魅力を感じたからです。その後,今の会社に入社,その魅力を体感し,現在に至ります。
振リ返って見ると,化学を選んだことは良い選択だったと思います。そしてこの選択のルーツには中学時代の3年間がありました。
化学だいすきクラブニュースレター第24号(2013年6月20日発行)より編集/転載