化学だいすきクラブ

私が化学を選んだ理由(東京工業大学名誉教授・大倉一郎)

この記事を書いた人: 大倉一郎 Ohkura lchiro
職業:東京工業大学名誉教授 経歴:2009年度,2010年度日本化学会副会長専門:生物工学,触媒化学
東京工業大学名誉教授・大倉一郎氏

昔から「君は理科系の方が向いている」とよく言われてきました。中学の時,期末試験が終わると各試験科目の最高点と最低点が発表されます。数学は最高点,歴史は最低点だったのを覚えています。何といっても暗記ものが苦手でした。特に人の名前,地名,年号が覚えられないのです。早くから勉強しても試験当日には忘れてしまうといけないので試験の日に向けてぎりぎりに勉強します。そのため,一夜漬けになることが度々でした。これでは成績がよくなるはずがありません。一方,理系科目は暗記することが少ないので好きでした。

中学の頃から実験は大変好きでした。生物実験,化学実験,物理実験,いずれにも興味がありましたが,生物実験では血を見るのが苦手でどうもついていけませんでした。物理実験はばねの伸びを計るといった退屈なものが多かった気がします。それに比べ化学実験は変化が顕著で興味深く感じました。急に色が変わったり,煙や泡が吹き出すといった不思議な現象に魅せられました。そんなことで化学部に入部しました。ある時は先生に内緒で仲間と一緒にいろいろな色の煙を出す発炎筒を作ったりしたものです。

これは当時ある先生が雑談的に話したものなので真偽のほどはわかりません。理工系希望の中・高生を見ると中学初学年は機械,建築,土木に興味をもつ傾向が強いが,高校の高学年になると化学,電気といった分野に興味を持つようになるというのです。目に見える自動車,建物といったものに比べて,目に見えない電子や分子に興味をもつのがより深い世界だといわれ,化学の分野に興味をもつことを自分なリに納得したことを覚えています。

頭に浮かんだアイデアから実験を重ね,長い試行錯誤の中から何かが証明されたり,新しい化学反応が見つけられた喜びはたとえようがあリません。それが社会に少しでも貢献できたらと思って研究を続けてきました。また,研究室の学生さんにもできるだけ研究テーマに興味を持ってもらえるように努力してきました。今,顧みて恩師,友達,学生さんに恵まれて,自分の好きな化学を仕事にできたことをありがたいと思っています。多くの若い方々が化学の面白さに触れ,次代を担っていってくれることを願っています。

イラスト
イラスト: 化学実験への興味(イメージイラスト)

化学だいすきクラブニュースレター第21号(2012年7月10日発行)より編集/転載

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