化学だいすきクラブ

暮らしの化学 夏の夜空を彩る化学 「花火」の秘密

暮らしの化学 夏の夜空を彩る化学 「花火」の秘密

7,8月は全国的にたくさんの花火大会が予定されています。

小学3年生の花子も,毎年,近所の花火大会に行きます。

音楽に合わせて打ち上げられる花火は,色も形も大きさもさまざま。

花火の不思議について,花子が中学1年生の兄のケンに聞いています。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

花火の色を決めるのは,元素

花子今年も花火の季節だわ。牡丹ぼたんに菊……大きな菊の花が咲いた後に小さな花がたくさん咲く花火もあるわね(写真1)。もちろん形はすごいけれど,どうしていろいろな色の光が出せるのか不思議よね…

ケンそれを知りたいなら化学を勉強しなくちゃならないね。

花子どういうこと?

ケン例えば,花火がどんな色の光を出すかは,花火に含まれている「元素」によって決まっているんだ。シュウ酸ストロンチウムは白い粉だけれど,ストロンチウム(Sr)が入っているから燃えると赤い光を出す。そのほか,硝酸ナトリウムはナトリウムによって黄色の光を,銅粉は青緑色の光をそれぞれ出すんだよ(表1)。

花子「元素からいろいろな色の光が出る」ってどういうこと?

ケン花火は,ものが燃える“燃焼”なんだ。燃焼では温度が上がるから,そこに含まれている元素がエネルギーを受け取る。それが,もとのエネルギー状態に戻る時に,エネルギーを光として出すんだけれど,そのエネルギーの大きさによって光の色が決まるんだ。燃やしてみるとわかるからやってみよう(写真2)。

花子わぁ,きれい!!

ケンこうして物質を炎の中で加熱すると,その中に含まれている元素に特有の色の光が出る。これを「炎色反応」というんだ。ちなみに光の色を決めるのは,炎色反応ばかりではない。例えば,ろうそくの赤い炎は,高温になったススが橙色に光っているためで,炎色反応とは仕組みが違うんだ。

花子光と色の世界って面白いのね!

美しい花火を実現するための「火薬」

花子あんな風に“ドカーン”と燃えるのには,仕掛けがあるのよね?

ケンそれは,打ち上げ花火がどうやってつくられているかを見たらわかるよ(図1)。花火は火薬の仲間なんだ。だから花火づくりは火薬の配合から始まる(図1①)。ところで花子は,ものが燃える時に必要な3つの要素を知っているかな?

花子紙のような“燃えるもの”と“酸素(O2)”と“火”よね?

ケンその通り!それぞれ「可燃物」と「酸素」と「熱」だね。だから火薬は,表1のような燃える物質である「可燃剤」と,酸素を供給する物質の「酸化剤」からからできているんだ。そして最後に火をつければ,燃焼の3要素が揃って,打ち上げることができる。この火薬にさっき話した色の光の素となる物質を混ぜるから,色とりどりの花火ができるんだ。

花子酸素は大気中にいくらでもあるのに,「酸化剤」が必要なのね。

ケン酸素を効率よく供給するためだ。余談だけれど,花火は周りから酸素をもらう必要がないから,海の中や宇宙でも打ち上げられるらしいんだ。

花火づくりに戻ると,この火薬を丸い形にしたものを“星”と言う(図1②)。この星と花火玉を割るための火薬「割薬わりやく」を,導線のついた半球形の容器に詰めて,2つ貼り合わせたら花火玉の完成だ!(図1③)

打ち上げを成功させる「火のリレー」

ケン花火ができたら,いよいよ打ち上げだ。

花子筒がいっぱい並んでいるのを見たことがあるわ。

ケン打ち上げには,「打ち上げ筒」を使う(図2)。筒にまず,打ち上げ用の火薬「揚薬あげやく」を入れ,その上に花火玉をのせる。これで発射準備は完了だ。花火玉につながっている導火線に火をつけると(図2①),まず揚薬に火がついてその爆発で花火玉が打ち上がる(図2②),次に割薬に火がついて爆発,この勢いで中の星が四方八方に飛び散る(図2③)。この時,星に火がついて燃えてさまざまな色の光が出る。

花子見えないところで,すごい火のリレーが行われているのね。

ケンそうなんだ。だから花火を扱うには安全の知識が必要だし,そもそも誰でも扱えるわけじゃない。花火をつくったり打ち上げたりできるのは,保安教育を受けて「煙火消費保安手帳」を持っている花火師さんだけなんだ。

花子へぇ。楽しい花火は,化学の知識や安全の知識に支えられているのね!!

写真 1
写真 1: 夜空を彩る打ち上げ花火。幾つもの色が輪になっていたり、光が尾をひいていたり…。色も形も大きさもさまざまで飽きることがない。
表 1
表 1: 花火の火薬の成分 花火の色を決める炎色剤のほか、可燃剤、酸化剤などからできている。
写真 2
写真 2: 花火に含まれる炎色剤の炎色反応。炎色剤は元素に特有の色の光を発する。(提供:中條敏明 氏)
図 1
図 1: 打ち上げ花火ができるまで(イラスト提供:公益社団法人 日本煙火協会)
図 2
図 2: 火のリレー
参考資料:
家庭でトライ!! キッチンで炎色反応(化学だいすきクラブ):https://kdc.csj.jp/learning/item_1081.html
「炎色反応にかかわる様々な話題」大阪府立和泉高等学校 深野哲也、『化学と教育』65巻3号2017年
『花火の事典』荒井充 監修、東京堂出版
日本の花火(小野里公成氏 制作):http://japan-fireworks.com/index.html
打揚花火のしくみ(公益社団法人日本煙火協会):http://www.hanabi-jpa.jp/uchiage/structure.html

*ウェブサイトいずれも,2020年12月現在

化学だいすきクラブニュースレター第45号(2020年7月1日発行)より編集/転載

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