化学だいすきクラブ

暮らしの化学 落葉,霜柱,凍結防止剤,スズペスト,カイロ “冬の化学”を探してみよう!

暮らしの化学 落葉,霜柱,凍結防止剤,スズペスト,カイロ “冬の化学”を探してみよう!

寒い季節になりました。日曜日の朝,中学1年生のケンと小学3年生の花子の兄妹は,窓の外を眺めながら,「寒くて外に出たくないね」と話をしています。しかし,この季節にしか見られない化学的な現象がいろいろあることに気づいた2人は,外で“冬の化学”を探したくなってきました。

この記事を書いた人: 池田亜希子
サイテック・コミュニケーションズ

ホルモンの作用で起こる“落葉”

花子私は寒いのが苦手なのよね。外に出たくないな。

ケン僕もずっと布団の中にいたいよ。何か面白いことがあれば起きられるんだけどな。じゃあ,身のまわりの, “寒い”から起こる化学的な現象や,“寒い”から利用している化学反応を考えてみようか。

花子例えば,何があるかしら?

ケン植物の中には寒さで葉を落とす種類があるね(写真1)。

花子葉は,光合成をして栄養分をつくる,大事な器官でしょ?でも冬になると落としてしまうのね。

ケン冬になって,日の光が少なかったり気温が低かったり条件が悪くなると,葉がつくり出す栄養分のエネルギーよりも葉が呼吸などで使うエネルギーが上回る。こうなると葉を落とした方が,植物にとっては好都合だ。落葉は,ホルモンが関係する化学的な現象なんだよ。

花子ホルモンって,人にもあるわね。

ケンそうだね。ホルモンというのはごく少ない量で特定の細胞に作用して,生き物のいろいろな機能を調節している物質のことなんだ。例えば,成長ホルモンは身長を伸ばすなど成長に関係しているホルモンだね。

花子植物には,葉を落とさせるホルモンがあるのね。

ケン植物は寒さを感じると,いろいろな変化を起こして,ホルモンとしてはたらくエチレンという気体の物質を放出する。このはたらきで細胞どうしの接着を弱める物質が生産されて,葉の付け根がはがれやすくなるんだ。

花子植物ってよくできているのね。でも,ちょっと葉っぱが可哀そう…

地中の水が柱状に凍る“霜柱”

花子じゃあ,霜柱(写真2)なんてどう?どうしてあんな風に水が柱状に凍るのか不思議よね。実験できないかしら?

ケン特別な道具が必要なわけでもないし,危険でもないから,僕たちだけでできそうだね。雪の結晶の研究で知られる中谷宇吉郎先生の随筆「『霜柱の研究』について」によると,今から80年以上前に,自由学園の女子学生たちが霜柱の不思議を解明しようと実験していたんだ。

花子お姉さんたちが研究していたのね!!

ケン霜柱ができ始めた頃に印をつけて,その印の移動から霜柱がどうやって伸びるかを調べたり,土をいろいろ変えて霜柱のできる条件を検討したりした。こうして,霜柱が下から押し上げられるように成長することや,土には微粒子が含まれていなければならないことを突き止めたんだ。

花子大気中の水が上へ上へと凍るんじゃないのね?

ケン違うんだ。朝の最低気温が氷点下になると,まず,地面の表面に近いところの水分が凍る。そうすると,土の中の水分が土の粒の間にある細い隙間を通って表面まで移動してきて,最初に凍った部分を押し上げながら次々に凍っていく。水のような液体が細い空間を重力に逆らってでも移動していくことを「毛細管現象」と呼ぶから,霜柱は「冬の寒さと毛細管現象」がつくり出しているんだね。

“凍結防止剤”が守る冬の道の安全

花子霜柱は楽しいけれど,凍ったら困るものもあるわ。アスファルトの道が凍ったら,車がスリップして危険よ(写真3)。

ケン路面の水が凍るのを防いだり,積もった雪をとかしたりするために塩をまくんだよ。

花子それは,私たちが食べている塩と同じものなの?

ケン食用につくられているわけでないから食べちゃダメだけれど,化学式は塩化ナトリウム(NaCl)で同じものだ。凍結防止剤とか融雪剤として売られているんだ。

花子塩をまくとどうして凍らないの?

ケン普通,水は0 ℃で凍って氷になるけれど,水に塩が溶けた食塩水が凍る温度は0 ℃よりも低くなる。この性質を利用して路面の水の凍結を防ぐんだ。ほかにも塩化マグネシウム(MgCl2)や塩化カルシウム(CaCl2)も使われている。ただ,どれもまきすぎると塩分によって農作物の生育が阻害されたり,コンクリートの劣化が進んだりするから気をつけなくてはいけないよ。

低温でボロボロになる“スズペスト”

ケンところで,“本当かどうかはわからない”とされているけれど,「1812年にフランスのナポレオン軍がロシア遠征で敗れたのは,スズ(Sn)でできていた兵士の上着のボタンが寒さでボロボロになって,兵士たちが寒さに耐えられなかったからだ」といわれているね。

花子スズって金属でしょ。そんな性質があるの?

ケンスズは13.2 ℃以下になると,もろい結晶構造に変わり始めるんだ。写真4のコインのように斑点ができて広がっていくのがペストという伝染病の症状に似ていることから,スズペストと呼ばれている。

花子怖い名前が付けられているのね。でも,13.2 ℃ってそんなに低い温度って感じがしないけれど…

ケンスズペストは,実際にはすごくゆっくり進む現象で,−30 ℃以下である程度の期間放置されてようやく観察されるらしいよ。

鉄が酸化される時の熱を利用した“化学カイロ”

花子ロシア遠征をしたナポレオン軍はさぞかし寒くて辛かったでしょうね…もっと温かい話をしましょうよ。そう,今,私たちに必要なのはカイロよ!

ケン人々は昔から,寒い冬を温かく過ごす工夫をしてきたね。平安時代後期には,焚火囲炉裏で温めた石を布にくるんだ「温石」をに入れるようになっていたようなんだ。江戸時代には炭の粉をかためたものに火をつける「灰式カイロ」が使われるようになり,大正時代にはベンジンのガスが白金と触れて発生する熱を利用する「ベンジンカイロ」が開発されて,1975年ごろに現在の化学カイロ*(写真5)が登場するまで使われていた。化学カイロは,その温まるメカニズムに化学反応が関係しているんだよ。化学カイロの中身は主に鉄粉と水だから,封を開けて取り出して振ると,そこに酸素が入ってきて鉄の酸化が起こる。この反応は鉄が錆びるのと同じだけれど,急激に起こさせることでその発熱を利用することができるんだ。

花子そういうことなのね!ところで,もっと“冬の化学”はないかしら?家にいても見つかりそうにないわね。化学カイロを持って出かけるわよ!

*化学カイロについてはこちらの記事もご参照ください:家庭でトライ!! 化学カイロを作ろう!

写真 1
写真 1: 落葉
写真 2
写真 2: 霜柱
写真 3
写真 3: 凍った道路
写真 4
写真 4: 斑点ができたコイン(出典:Popular Science Monthly Volume 83)
写真 5
写真 5: 化学カイロ
【参考】
植物Q&A「落葉と気温の変化」(日本植物生理学会):https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3159
霜柱はなぜ立つ?(毎日小学生新聞):https://mainichi.jp/maisho/articles/20160124/kei/00s/00s/006000c
「霜柱の研究」について(中谷宇吉郎):https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/53240_49760.html
冬の風物詩,霜柱にまつわる豆知識(ウェザーニュース):https://weathernews.jp/s/topics/201712/120215/
雪が降ったら塩をまく? 凍結防止剤のはなし(塩百科事典,東京ソルト株式会社):http://www.tokyosalt.co.jp/anti_freeze
最強の軍隊でも敵わなかったロシアの「冬将軍」の正体!!(ウェザーニュース):https://weathernews.jp/s/topics/201711/270215/
カイロのすべて(桐灰):https://www.kobayashi.co.jp/brand/all-about-hand-warmer/history.html
温石(リーフレット京都 No.177):https://www.kyoto-arc.or.jp/News/leaflet/177.pdf
ハクキンカイロについて(ハクキンカイロ株式会社):https://hakukin.co.jp/about.html

*ウェブサイト・PDFはいずれも,2022年4月現在

化学だいすきクラブニュースレター第49号(2021年12月1日発行)より編集/転載

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