化学だいすきクラブ

暮らしの化学 虫歯になんてならないぞ! 歯磨き粉に含まれるフッ素で虫歯予防

暮らしの化学 虫歯になんてならないぞ! 歯磨き粉に含まれるフッ素で虫歯予防

寝る前には必ず歯を磨かなくてはなりません。小学3年生の花子は遊び疲れて,「今日1日くらいは歯を磨かなくても許してもらえないかな」と考えています。

ところが,中学1年生の兄のケンから「虫歯にならないためには毎日の歯磨きが大切だ」 と言われ,虫歯と歯磨き粉の化学について聞くことになりました。 果たして花子は納得なっとくして歯磨きすることができるのでしょうか。

この記事を書いた人: 池田亜希子(サイテック・コミュニケーションズ)

虫歯菌は酸で歯を溶かす

花子ドッジボールをしたり,なわびをしたり,今日は楽しかった。疲れたから,もう寝るわね。

ケンちょっと待って,花子! 歯磨きはしたの?

花子してないけど… 1日くらい歯を磨かなくてもいいでしょ? 今日は疲れちゃったのよ。

ケンそれはダメだよ! 虫歯になってしまう。

花子も~,どうして虫歯になっちゃうのよ。

ケン虫歯菌のしわざだよ。

花子虫歯菌!! お母さんもいつもそう言うけれど,それっていったい何者なの?

ケン口の中にはいろいろな種類の細菌といわれる生き物がいるんだ。僕らの健康を守ってくれている細菌もいるけれど,中には,虫歯の原因となるものがいる。特に「ミュータンス連鎖れんさ球菌きゅうきん」が虫歯菌の代表と言われているよ(図1)。

花子ミュータンス連鎖球菌!? なんだかこわそうね。歯を食べちゃうのかしら?

ケンいやいや。ミュータンス連鎖球菌が食べるのは,歯にくっついている食べかすだよ。僕らが食事をしたり,おやつを食べたりするとどうしても歯に食べかすが残ってしまう。その中にある糖分とうぶんをミュータンス連鎖球菌が食べるんだ。そうすると乳酸にゅうさんといわれる酸ができて,歯のヒドロキシアパタイトという物質を溶かしてしまう(図2)。こうして歯は表面から徐々に溶けていって,ついには虫歯になってしまうんだ。ちなみに,ヒドロキシアパタイトを元素記号を使って書くと,Ca10(PO4)6(OH)2だよ。元素ファミリーの周期表を見ると,カルシウム(Ca),リン(P),酸素(O),水素(H)からできているってわかるね。

歯を修復し酸に強くする「フッ素」

花子きゃー。歯がどんどんなくなってしまうじゃない! どうしたらいいの?

ケン大丈夫。人間の体はよくできていて,唾液だえきの中には,歯の材料になるカルシウムやリンがちゃんと入っていて修復しゅうふくできるんだ。

花子もしかして,歯磨きなんてしなくていいんじゃないの?

ケンいやいや,そうじゃない。歯が溶ける速さが,修復する速さより速くなると虫歯になってしまう。だから,まずは歯磨きをして食べかすを取りのぞくことが重要なんだ。

花子虫歯菌のエサをなくすのね!

ケンその通り。さらに,最近の歯磨き粉には虫歯を予防よぼうしてくれる成分が入っている。その主役がフッ素(F)なんだよ。本紙第52号(2022年12月1日発行)の「元素ファミリー」にも関連の記事があるので,ぜひ読んでね!】

花子フッ素? なるほど。歯磨き粉のチューブにも「フッ化ナトリウム(フッ素)が歯質ししつを強化し,虫歯の発生・進行を防ぎます」って書いてあるわね。

ケン歯磨き粉にはフッ素がそのまま入っているのではなくて,フッ化ナトリウム(NaF)として入っているんだね。このフッ素,もう少し正確にいうとフッ化物イオン(F)が歯を守ってくれるんだ。

花子どんな風に?

ケンまず,フッ素には,溶けてしまったヒドロキシアパタイトを唾液の中のカルシウムやリンを使って作り直す(「さい石灰せっかい」という)作用を,スピードアップさせる力があるんだ(図3)。さらに,ヒドロキシアパタイトの一部がフッ素に置き換わることで,歯の表面がヒドロキシアパタイトよりも酸に強くなるんだ。

花子わぁ,フッ素はたのもしいわね。

歯の異常から発見されたフッ素の効果

花子それにしても,どうしてフッ素が虫歯を予防してくれるってわかったのかしらね?

ケン不思議ふしぎに思うよね。実は,フッ素を含む化合物が自然界にも存在そんざいしているからわかったことなんだ。1900年代の初め頃,アメリカのある地域に住んでいる人たちの歯に,白いシマができたり茶色く色がついたりしていることに,ある歯科医師が気付いたんだけれど,この人たちには虫歯が少ないという特徴とくちょうもあったんだ。その後の調査で,この人たちが使っている水に普通よりもたくさんフッ素が含まれていて,それが原因だとわかったんだよ。こうしてフッ素が歯に影響えいきょうを与えることがわかり,さらに適度てきどな量のフッ素は歯を強くすることがわかったんだ。

花子虫歯にならないためには,フッ素の力をうまく借りることが大事そうね。わかった。今日もしっかり歯を磨いてから寝るわ。

図1
図1: 虫歯菌の正体「ミュータンス連鎖球菌」。右のようなイラストで表現されているのを見たことのある人もいることだろう。ミュータンス連鎖球菌が糖分を分解する時に酸ができるから歯が溶けてしまう。(写真提供:(株)ヤクルト本社 中央研究所 菌の図鑑)
図2
図2: 虫歯になるメカニズム。ミュータンス連鎖球菌が作り出す乳酸によって歯の表面のヒドロキシアパタイトが溶け,カルシウムやリンが出ていってしまう。この速さが修復よりも速いと虫歯になる。ヒドロキシアパタイトは,Ca2+PO43−OHからできている六角形の柱状の結晶だ。(やまざき歯科医院/飯豊歯科クリニックのウェブサイトの記事を参考に作図)
図3
図3: フッ素が歯を守るメカニズム。フッ素は溶け出した歯の表面の修復を手助けする。さらにフッ素はヒドロキシアパタイトに入り込むことで,歯の表面を酸に強くする。(やまざき歯科医院/飯豊歯科クリニックのウェブサイトの記事を参考に作図)
【参考】
むし歯 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020:https://www.jda.or.jp/park/trouble/index02.html
歯の健康 基本のき | オーラルケア情報 | クリアクリーン | 花王株式会社:https://www.kao.co.jp/clearclean/oralcare/basic/
診療案内|Yamazaki Dental Clinic:http://www.yamazakidc.net/60/guide.html
むし歯ってなぜできる?むし歯になりやすい人、なりにくい人!! | 飯豊歯科クリニック | 南橋本の歯医者さん:https://www.1825.jp/knowledge/699/
虫歯とフッ素のお話① ~どうして歯磨きにフッ素が使われるの??~ | Chem-Station (ケムステ):https://www.chem-station.com/molecule/2021/05/f1.html

※URLのリンク先はいずれも2025年12月現在

化学だいすきクラブニュースレター第60号(2025年7月1日発行)より編集/転載

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