化学だいすきクラブ

暮らしの化学 化学電池、物理電池、燃料電池 電気エネルギーの活躍の場を広げる「電池」

暮らしの化学 化学電池、物理電池、燃料電池 電気エネルギーの活躍の場を広げる「電池」

中学1年生のケンと小学3年生の花子の兄妹は,55号に続いて電池について話しています。

一口に「電池」といっても,その構造や発電の仕組みはさまざま。

でも,“発電する”という機能を発揮するための共通点も多いようです。

私たちの暮らしの中では,いったいどのような「電池」が活躍しているのでしょうか。

この記事を書いた人: 池田亜希子(サイテック・コミュニケーションズ)

化学反応を利用して発電する「化学電池」

ケン「電池とは何か」を理解するところから始めよう。電池とは,さまざまなエネルギーを電気エネルギーに変換する装置のことなんだ。化学反応で発生したエネルギーを電気エネルギーに変換する「化学電池」と,熱や光などの物理エネルギーを電気エネルギーに変換する「物理電池」の2種類に大きく分けられる。化学電池には,使い切りタイプの「一次電池」と,充電して繰り返し使える「二次電池」がある。そして特に,水素と酸素の化学反応から電気を発生させる装置を,「燃料電池」と呼ぶ(図1)。

花子わぁ,いろいろな種類があるのね!

ケン化学反応を利用して電子を取り出す「化学電池」を詳しく見てみよう。図1にはいろいろな化学電池が登場しているけれど,どの化学電池も基本的にプラス極(正極)とマイナス極(負極)の2種類の「電極」と,+極と-極の間で必要な物質を運ぶ役割をする「電解質」からできている(図2)。この電解質は普通,液体だから,液漏れすることがあって電池の普及の妨げになっていた。1885年頃にドイツの科学者のカール・ガスナーさんは石膏せっこうを使って,日本では発明家の屋井やい先蔵さきぞうさんが水に溶けないパラフィン(石蝋せきろう,「元素ファミリー」に関連のお話)を使って,それぞれ電解質を固めて,持ち歩いても中の液体がこぼれない電池を発明したんだ。これらが乾電池の始まりで,電池の普及につながったんだよ。

花子そうなんだ。化学電池はどんな風に発電するの?

ケン-極で取り出された電子が,導線を通って+極に流れて行くんだ。

花子それって,野球の“バッテリー”みたいね。-極が電子というボールを投げるピッチャーで,+極がそれを受け止めるキャッチャー。

ケン良い例えだ! そんなことができるのには,電池を構成している物質の性質が関わっている。つまりピッチャーやキャッチャーになる金属の組み合わせがあるんだ。

花子どんな組み合わせでもいいわけではないと?

ケンそういうことなんだ。「ダニエル電池」を例に詳しく見てみよう(図2)。亜鉛の-極と銅の+極が,電解質を水に溶かした水溶液にひたっているね。

-極で亜鉛が放出した電子が,+極の銅へと流れて行き,電解質の水溶液中の銅イオンに受け取られる。電子の受け渡しに関わる亜鉛と銅イオンを「活物質」と呼ぶよ。

こうして電子の受け渡しができるのは,金属には電子を放出しやすいものと,受け取りやすいものがあるからなんだ。この性質を「イオン化傾向」と言って,電池をつくるときに,電極にどういった金属を使うか,電解質を何にするかを考えるのに大事なんだ(図3)。

リチウムを使って最高の電池をつくれ!

花子ふむふむ。最も電子を放出しやすい金属はリチウム(Li)だから,リチウムを-極にして電池をつくったらいい電池ができそうだわ。

ケン基本的な考え方はそういうことなんだ。すでに,リチウム一次電池やリチウムイオン電池(二次電池)が製品化されて広く使われている。でも,この理想的な電池を開発するのはとてもたいへんだった。金属のリチウムを-極にした一次電池は開発できたのだけれど,二次電池に進化させる段階で発火事故が起こったりして,製品化できなかった。1985年に,吉野彰さん(本誌No.49「私と化学」にご登場)が金属のリチウムの代わりにリチウムイオン(Li)を利用することで,リチウムの潜在能力を発揮させる電池の原型を確立して,実用化のめどが立ったんだ。こうして1991年に,世界で初めて日本で製品化したのが「リチウムイオン電池」なんだ。吉野さんはこの功績で2019年にノーベル化学賞を受賞している。

花子それだけ世界的にインパクトがあったのね。

ケンリチウムイオン電池は,小型で軽いという特徴をもつ二次電池なんだ。スマートフォンやパソコンがここまで小さくなったのも,電気自動車の1回の充電で走れる距離が長くなったのも,この電池のおかげなんだよ。

これからの電池に求められていること

花子電池の性能は十分満足のいくものなの?

ケン一次電池で最も普及しているアルカリ乾電池は,電解質が強アルカリ性のマンガン乾電池(本誌No.55「暮らしの化学」)の仲間だ。鉛蓄電池は1859年に発明されて以来,改良されながら今でも車のエンジンをかけるときに電力を供給するバッテリーとして活躍している(図4)。物理電池では,太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池が,家の屋根に設置されるなど身近になったね。風力や太陽光など自然エネルギーで発電して余った電力を溜めておく,NASナス電池(ナトリウム硫黄電池)という大規模で充電可能な化学電池もある。

でも,まだ電池の性能向上は続いている。例えば,電気自動車がもっと普及するには,現在のリチウムイオン電池を超える二次電池が必要なんだ。有力とされているのが,すべての材料が固体の「全固体電池」だ。固体電解質の発見によって,発火などの事故が減ったんだ。その上,1回の充電で走ることのできる距離は伸びて,充電時間は短くなると期待されているんだ。日本でも盛んに研究されているよ。

花子どんな電池が登場するか,注目しなくちゃ!

図1
図1: 電池の種類(提供:一般社団法人 電池工業会)
図2
図2: ダニエル電池で電気エネルギーがつくられるプロセス。亜鉛と銅の電極のうち,イオン化傾向(図3)がより大きい亜鉛が電子を放出する。この電子が,イオン化傾向の小さい銅へと流れて行って,電解質の水溶液中の銅イオンに渡される。ダニエル電池では,2種類の電解質の水溶液が使用され,イオンが通ることができる小さい穴の空いた膜(セロハンなど)で仕切られている。簡単には混ざらないが,電池に必要な物質の移動は妨げられない。
図3
図3: イオン化傾向。イオン化傾向が大きい金属ほど,電子を放出してイオンになりやすい。
図4
図4: いろいろな乾電池(左上)と鉛蓄電池(右上),電気自動車用の電池モジュール(左下),太陽電池(右下)。乾電池にはいろいろな形や大きさだけでなく,いろいろな発電法がある。太陽電池はほかに太陽光パネルや太陽光発電などと呼ばれる。
【参考】
『図解まるわかり 電池のしくみ』(翔泳社)
「電池のしくみ」(Panasonic Energy):https://www.panasonic.com/jp/energy/study/academy/sikumi.html
「燃料電池のしくみ・特徴」(中国電力):https://www.energia.co.jp/energy/general/newene/newene3.html
「第3回 ノーベル賞も受賞!リチウムイオン電池の普及の歴史」(muRata):https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-3
「EV電池とは? 普及拡大に向けた日本の課題と取り組み」(日経ビジネス):https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/070500580/

※URLのリンク先はいずれも2024年9月現在

化学だいすきクラブニュースレター第56号(2024年4月1日発行)より編集/転載

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